原子力発電所の安全性とは? 再稼働に向けた取組みとともに解説
2011年に起こった福島第一原子力発電所の事故によって、多くの原子力発電所が停止しました。原子力発電所の再稼働には、これまで以上に安全性を考慮した新規制基準を満たすことが必要です。
原子力発電所の再稼働に関して「安全性に関する取組みを知りたい」「新規制基準の詳細を把握したい」という企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、原子力発電所の重要性や新規制基準、再稼働に向けた取組みなどを解説します。
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原子力発電所の重要性
原子力発電所は、エネルギー供給量の少ない日本で重要な役割を担っています。
経済産業省 資源エネルギー庁の『エネルギーの安定供給の再構築』によると、2020年度における日本のエネルギー自給率は11.2%でした。東日本大震災後はエネルギー自給率が6%まで低下していたため、上昇傾向にあるといえますが、海外と比較すると低水準です。
また日本は、化石燃料のほぼ全量を海外からの輸入に頼っています。原子力発電は、わずかな燃料でエネルギーを生み出して、天候や時間帯に左右されずに電力を供給できることから、高い安定性が期待できます。
さらに、原子力発電では、元素であるウランを核分裂させることで発生する熱エネルギーを使用します。これにより、二酸化炭素の排出を抑えられることもメリットの一つです。
このように、安定したエネルギーの供給や地球温暖化防止の観点から、原子力発電所が重要であるといえます。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁『エネルギーの安定供給の再構築』『今後の原子力政策について』『原発のコストを考える』
原子力発電所の運転状況
2023年2月現在、多くの原子力発電所が停止、あるいは廃止措置中となっています。
東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故をきっかけとして、多くの発電所が停止しました。現在、再稼働しているのは6発電所9基のみです。(※2023年2月時点)
原子力発電所の新規制基準
日本政府は、原子力発電に関わる安全規制の業務を担う行政機関として、2012年9月19日に“原子力規制委員会”を設置しました。
原子力規制委員会では、福島第一原発事故を教訓として、2013年に原子力発電所の新規制基準を策定しています。原子力発電所を設置・稼働させる場合、新規制基準を満たしているか審査を受けることが必要です。
また、福島第一原子力発電所の事故では、地震や津波の影響により多くの機器・系統が安全機能を喪失しています。燃料の重大な損傷をはじめ、想定されていないシビアアクシデントの進展を食い止めることができませんでした。
福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ、新規制基準は、“設計基準の強化”と“シビアアクシデント対策”の二本柱で構成されています。
▼原子力発電所の新規制基準
画像引用元:経済産業省 資源エネルギー庁『原発の安全を高めるための取組 ~新規制基準のポイント』
出典:経済産業省 資源エネルギー庁『原発の安全を高めるための取組 ~新規制基準のポイント』
原子力発電所の再稼働に向けた取組み
原子力発電所の再稼働に関しては、原子力規制員会によって科学的・技術的に審査が行われます。そのうえで、新規制基準をクリアした原子力発電所のみ稼働できます。新規制基準の審査をクリアした原子力発電所は、周辺地域の理解を得ながら再稼働を進めていくことが必要です。
電気事業者は、安全に原子力発電所を再稼働できるように、安全性を高めるための投資や安全設備の追加などを行っています。
また、原子力発電所の安全性を高めるために、2012年11月に“原子力安全推進協会”、2018年7月に“原子力エネルギー協議会”が立ち上げられました。原子力エネルギー協議会を中心に、技術課題の検討や保全活動の充実に取組み、点検と保全を進めています。
さらに、原子力発電の定期的な検査の実施、運転サイクルの長期化の検討なども進行しています。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁『もっと知りたい!エネルギー基本計画⑦ 原子力発電(1)再稼働に向けた安全性のさらなる向上と革新炉の研究開発』
原子力発電所の今後の展望
原子力発電所においては、安全性や放射性廃棄物などの問題を解決するために、革新炉の開発が推進されています。
現在、開発が進められている“革新炉”と呼ばれる原子炉には、“革新軽水炉”や“高速炉”、“SMR(Small Modular Reactor:小型モジュール炉)”などがあります。
革新軽水炉は、既存の軽水炉をベースとして、より安全性を高めて研究・開発が進められる革新炉です。事故によって電源が落ちても原子炉を冷やせるシステムや、炉心が溶融した場合でも放射性物質を発電所の敷地内に留められる設計を取り入れています。
また、SMRは、人的ミスや機器の故障を回避できる点や、大型の原子炉と比べて冷えやすく、初期投資コストを抑えられるといったメリットがあります。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁『もっと知りたい!エネルギー基本計画⑦ 原子力発電(1)再稼働に向けた安全性のさらなる向上と革新炉の研究開発』『原子力にいま起こっているイノベーション(前編)~次世代の原子炉はどんな姿?』
伊藤忠テクノソリューションズの原子力電力発電所向けサービス
伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)では、1960年代から約60年間にわたって原子力発電所向けのライフサイクル全般におけるソリューションを提供しています。
原子力発電所向けのソリューションとして、安全性向上に向けたコンサルティングを行っているほか、原子力発電所の再稼働を支援するために、幅広い物理現象(地震・津波・熱流動・火災・自然災害系など)をCAE解析によってシミュレーションしています。
▼原子力におけるCAE解析シミュレーションの例
また、事故時の運転員の技術向上を目的としたSAシミュレータ、廃炉作業員の訓練や作業計画の検討・検証を目的としたVRシステムの開発も行っています。
▼楢葉遠隔技術開発センター VRシステム
出展:Best Engine「人が入れない空間を可視化するVR技術」
CTCでは、今後も原子力発電所のライフサイクルに沿ったソリューションを提供して、原子力発電所の更なる安全性向上の実現に貢献します。
伊藤忠テクノソリューションズでは、原子力に関わる解析シミュレーションサービスを提供しています。原子力分野への取組みや解析シミュレーション例、ソリューションのイメージなどは、こちらの資料をご確認ください。
まとめ
この記事では、原子力発電所について以下の内容を解説しました。
- 原子力発電所の重要性
- 原子力発電所の運転状況
- 原子力発電所の新規制基準
- 原子力発電所の再稼働に向けた取組み
- 原子力発電所の今後の展望
- 伊藤忠テクノソリューションズのソリューション
エネルギー自給率が低い日本において、安定的にエネルギーを確保できる原子力発電所の重要性は極めて高いといえます。
また、今後は、新規制基準に適合すると認められることで原子力発電所の再稼働が可能となります。審査をクリアした原子力発電所は、周辺地域の理解を得ながら再稼働を進めていくことが重要です。