
第1回:なぜ進まない?建設業界のデジタル化の壁
はじめに:なぜ今、建設業界にデジタルが必要なのか?
建設業界は今、大きな転換点に立たされています。人手不足、熟練技術者の高齢化、働き方改革、そしてカーボンニュートラルへの対応。これらの課題に立ち向かうためには、もはや「紙と勘と経験」だけでは限界があります。
特に中堅・中小の建設会社にとって、デジタル化は「コスト」ではなく「生き残りのための投資」です。しかし、現実には多くの企業が「やらなきゃとは思っているけど、進まない」という状況にあります。
今回は、その“進まない理由”を掘り下げ、どこに壁があるのかを明らかにしていきます。
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デジタル化が進まない5つの理由
① IT人材がいない、育たない
多くの中小建設会社では、IT専任者がいない、もしくは兼任で対応しているのが現状です。現場のことは分かっても、ITのことは分からない。逆に、ITに詳しい人材が入っても、建設業界特有の業務に馴染めず、定着しないケースもあります。
② 現場が忙しすぎて、変える余裕がない
「今のやり方でなんとか回っている」「新しい仕組みを入れると、かえって混乱する」—— そんな声をよく耳にします。特に現場は常に納期に追われており、変化に対する心理的・時間的な余裕がありません。
③ デジタル化=高コストという誤解
BIMやCIM、CDEといった言葉を聞くと、「大手ゼネコンの話でしょ?」と思われがちです。しかし、実際には中小企業でも導入可能なクラウドサービスやアプリが多数存在します。にもかかわらず、「高そう」「難しそう」という先入観が導入のハードルになっています。
④ 属人化された業務が多すぎる
「この図面は○○さんしか分からない」「この工程表は△△さんのExcelで管理している」—— こうした属人化は、デジタル化の大敵です。標準化されていない業務は、システム化しにくく、結果として“人に頼る”体制が続いてしまいます。
⑤ 成功体験が少ない
「他社がどうやって成功したのか分からない」「うちの規模では無理だと思っている」—— こうした情報不足も、デジタル化を妨げる要因です。特に地方の建設会社では、横のつながりが少なく、成功事例が共有されにくい傾向があります。
現場・設計・管理、それぞれの課題
■ 現場:紙の図面と手書きの帳票
現場では今も紙の図面が主流です。修正が入るたびに印刷し直し、現場に届ける。帳票も手書きで、後から事務所でデータ入力……。この非効率が、ミスや手戻りの原因になっています。
■ 設計:CADデータの共有が難しい
設計部門ではCADを使っていても、他部門や協力会社とのデータ共有がスムーズにいかないケースが多く見られます。メール添付やUSBでのやり取りは、セキュリティリスクも高く、バージョン管理も煩雑です。
■ 管理:Excel地獄と電話・FAX文化
工程管理、原価管理、安全管理……多くの管理業務がExcelで行われています。しかも、ファイルが乱立し、どれが最新版か分からない。さらに、連絡手段が電話やFAX中心で、情報の即時共有が難しいという課題もあります。
他業界との比較:建設業は“最後のアナログ産業”?
製造業や物流業界では、IoTやAI、クラウドの活用が進んでいます。たとえば、製造業では「見える化」が当たり前になり、リアルタイムでの生産状況把握や品質管理が実現しています。
一方、建設業界は「一品生産」「現場ごとに異なる条件」「多重下請け構造」など、デジタル化が難しい要素を多く抱えています。しかし、それは“できない理由”ではなく、“やり方を工夫すべき理由”です。
課題の整理:技術・人・制度の3つの壁
分類 | 主な課題 | 具体例 |
技術的課題 | ツールの選定、導入コスト | BIM/CIMの導入費用、クラウドのセキュリティ懸念 |
人的課題 | IT人材不足、現場の抵抗感 | 教育不足、属人化、変化への不安 |
制度的課題 | 業界慣習、契約・法制度 | 紙図面の提出義務、電子契約の未整備 |
おわりに:まずは“気づく”ことから始めよう
デジタル化は一朝一夕には進みません。しかし、今のままでは「人がいない」「利益が出ない」「若手が定着しない」という負のスパイラルから抜け出せません。
まずは、自社のどこに課題があるのかを“見える化”すること。そして、「全部やろう」とせず、「できるところから始める」ことが、成功への第一歩です。
次回は、こうした課題に対して、中小企業でも実践できる具体的な解決策と事例をご紹介します。
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