CCS長期ロードマップとは?CCS事業拡大における取り組みを解説
2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、削除しきれないCO2を地中に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という技術が必要不可欠とされています。日本においてもエネルギー基本計画にて、CCSは最大限活用する必要があると位置づけられており、日本の脱炭素化と産業政策、エネルギー政策を両立するための重要な「鍵」になるとされています。
こうした考えのもと、CCSについて技術的確率・コスト低減、適地開発や事業化に向けた環境整備に係る長期ロードマップが策定されました。今回はそのCCS長期ロードマップに関して解説いたします。
まずはCCS/CCUSに関して詳しく知りたいという方は下記をご参照ください。
目次[非表示]
- 1.CCS長期ロードマップの基本理念
- 2.CCS長期ロードマップの目標
- 3.目標達成に向けた具体的な取り組み案
- 3.1.CCS事業への政府支援
- 3.2.CCSコスト低減に向けた取り組み
- 3.3.CCS事業に対する国民理解の増進
- 3.4.海外CCS事業の推進
- 3.5.CCS事業法の整備に向けた検討
- 3.6.「CCS行動計画」の策定・見直し
- 4.伊藤忠テクノソリューションズのシミュレーション・データ解析技術
- 5.まとめ
CCS長期ロードマップの基本理念
まずは長期ロードマップの基本理念についてご説明します。CCS長期ロードマップ検討会において、「CCSを計画的かつ合理的に実施することで、社会コストを最小限にしつつ、我が国の経済及び産業の発展、エネルギーの安定供給確保やカーボンニュートラルの達成に寄与することを目的とする」と取りまとめられました。
画像引用元:経済産業省 資源エネルギー庁「CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ」CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ(METI/経済産業省)
つまり長期ロードマップを基にした取り組みにより社会コストを最小限にすることで、CCS事業の発展を促し、結果的に日本の経済や産業の発展、カーボンニュートラルの実現の寄与につなげることを目的としています。
CCS長期ロードマップの目標
目標においては年間貯留量目標と事業環境の整備の2面から言及されています。
- 年間貯留量目標:2050年時点で年間約1.2~2.4億トンのCO2を貯留することを目標としています。
- 事業環境の整備:2030年までに事業開始に向けた環境を整備することが目標です。ここにはコスト低減、国民理解の向上、海外CCS推進、法整備等が含まれています。
年間貯留量目標を達成するための道筋として、事業環境の整備が掲げられています。
目標達成に向けた具体的な取り組み案
最後に、目標達成に向けた6つの具体的な取り組みについてご説明いたします。
CCS事業への政府支援
2030年までの事業開始を目標に、事業者主導による「先進的CCS事業」を策定し、国による集中支援を行うと決められています。実際に経産省の外郭団体であるJOGMECの支援を受け、2024年度は9つの案件が選定されています。
さらに、CCSを目的とした地質構造の調査やJOGMECによる地質構造調査のデータ貸し出し、CCS事業モデルの検討なども実施予定です。
CCSコスト低減に向けた取り組み
2050年におけるCCSのコスト目標を2023年比で、分離・回収コストは4分の1以下、輸送コストは7割以下、貯留コストは8割以下にし、目標達成に向けた取り組みを行うとされています。
CCS事業に対する国民理解の増進
CCSの長期安定的な利用実現のためには、CO2貯留所の立地地域に関して、国民の理解を得ることが重要となります。そのために、2030年まで国主導による地域毎のCCS説明会や、貯留地域におけるCCS中核の*ハブ&クラスターや関連する産業・雇用の支援を検討しています。
*ハブ&クラスター:複数のCO2排出源から一度ハブとなる拠点にCO2を集めた上で、CO2を輸送・圧入する効率的なサプライチェーンの形態。
海外CCS事業の推進
有望な海外の貯留ポテンシャル活用など、あらゆる選択肢追及のため日本からCO2の輸出を前提とした具体的な交渉を複数国と開始するとされています。
また日本が主導するAETIに基づく「アジアCCUSネットワーク」やJOGMECによるリスクマネー供給等によるプロジェクト支援を通して、日本企業の権益取得支援も検討しています。加えて、クレジット制度を通じた排出権取引実現のため、二国間クレジット制度(JCM)におけるCCSを含むプロジェクトの組成促進や、国際的なクレジット制度の立ち上げ支援も行う予定です。
CCS事業法の整備に向けた検討
以前の日本においてCCSに特化した法令がなく、分離や回収などの各プロセスにおいて既存の法令を適応していました。そこで2024年5月17日に参議院本会議にて、CCS事業法が可決・成立しました。
「CCS行動計画」の策定・見直し
CCSの年間貯留量目標やコスト目標、技術開発指針や適地調査計画についてより詳細な検討を行い、「CCS行動計画」を策定するとともに、適時見直しをするとされています。
以上のように国を挙げてCCS事業の促進が行われており、今後CCS技術は日本の製造業のカーボンニュートラル実現に向けて欠かせない技術になるでしょう。
伊藤忠テクノソリューションズのシミュレーション・データ解析技術
伊藤忠テクノソリューションズでは、石油や天然ガスなどの資源開発におけるシミュレーション・解析ソリューションを提供しております。資源開発の技術と類似点の多いCCSのプロセスでは、これらの資源開発ソリューションの活用が有効的だと考えております。
CCSに関連するソリューションについては、下記資料をご参照ください。
まとめ
日本におけるCCSの取り組みとして「CCS長期ロードマップ」の詳細についてご説明させていただきました。今後CCS事業が拡大していく中で取得してくデータは貴重なものであり、その上でシミュレーションや解析、データの扱いに長けたIT専門家の果たす役割は大きいと言えるでしょう。
今後もシミュレーション、解析技術について更なる向上を図り、カーボンニュートラル実現に貢献していきます。
参考文献
経済産業省 資源エネルギー庁「CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ」
Best Engine「脱炭素を推進する「CCS」への挑戦ー社会課題の解決を目指す科学システム本部の取り組み」|Best Engine
三菱ガス化学株式会社「CCS(CO2の回収・貯留)のサプライチェーン構築に関する検討・調査を3社共同で実施」
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