
数理最適化やシミュレーションで解く計画問題 工場DXにおける「計画」問題にどう対処するか?
スマートファクトリー化や工場のDX化を進める中で最終的な課題として生産計画作成や在庫計画の立案など「計画問題」に行きつくことが多いです。本記事では生産スケジューリング、在庫計画、作業員配置計画といった計画(スケジューリング)の課題に対するデジタル技術によるアプローチを解説いたします。
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製造業分野での計画問題
スマートファクトリー化や工場のDX化を推進していく時には様々なプロセスがあります。その中で、データが取得できシステムによってデータの管理・統合がある程度できている状況になったときに課題として浮かび上がることが多いのは「計画問題」と呼ばれる領域です。データ計画問題には下記のような種類があります。
- 生産計画(生産スケジューリング)
製品の生産プロセスを効率的に管理・運営するための計画を立てることを指します。特に、生産のタイミングや順序を決定し、効率的な生産スケジュールを作成することを指します。
- 在庫計画
製品や原材料の在庫を適切に管理し、必要なときに必要な量を確保するための計画を立てることを指します。具体的には、安全在庫を設定することや、在庫回転率を考慮した適切な在庫レベルを把握することを行います。適切な在庫計画を行うことで、過剰在庫や欠品を防ぎ、顧客の需要に迅速に対応することができます。
- 作業員配置計画
工場内の生産ラインや各工程において、作業員を最適に配置するための計画を立てることを指します。スキルマッピングや作業員シフトを考慮して計画全体が作成されます。作業員配置計画を最適化することで、生産性の向上やコスト削減が期待できます。
- 配送計画
工場内での物資の移動を効率的に管理・最適化するための計画を指します。これには、原材料や部品、製品の受け入れ、保管、ピッキング、搬送、出荷といった一連の工程が含まれます。搬送計画を最適化することで、工場全体の生産効率を向上させ、コスト削減を実現することができます。特に、AGVやAMR(自律走行搬送ロボット)などの自動化技術を導入することで、作業者の負担を軽減し、効率的な搬送が可能になります。
多品種小ロット生産や複雑なフローが存在するライン、設備や作業員の取り合いが発生するなど実際の現場の制約のもとでは計画問題は大規模で複雑になります。
計画問題へのアプローチ
実際の現場の複雑な計画問題に対応するには、人の作業、生産システム、テクノロジーなど様々な切り口が存在しますが、どれも高度な技術が必要になります。対策については、学術的にはオペレーションズリサーチやインダストリアルエンジニアリングといった領域で解決のアプローチが研究されてきました。また、現場の試行錯誤や経験によって対策が決まっていることもあります。方法論が確立されているものはEXCELなどを使って算出することが可能です。ただ、それらは静的な検討や大雑把な検討に留まり、現場固有の制約などを考慮した詳細なオペレーションの反映などはできません。そのため、導かれる計画は現場での適用に耐えられないような品質が悪いものになりがちです。実現性がある解決策を導きだすには、デジタル技術の中でも最適化技術と言われる技術を活用し動的な検証や詳細な検討を行うことが望ましいです。
計画問題への最適化技術を活用したアプローチ
計画問題へ最適化技術を適用する時、いくつかのアプローチが考えられます。
- 専用のアルゴリズムを作成する
- その問題を解くためことに特化したアルゴリズムを作成し、それによって最適解を求めます。
- 数理最適化技術を適用する
- その問題を線形計画モデルなどとして表現し数理最適化ソルバーを利用して最適解を求めます。
- メタヒューリスティック最適化技術を適用する
- シミュレーティッドアニーリング法や遺伝的アルゴリズムなどヒューリスティックなアルゴリズムを利用して最適解を求めます。この時シミュレーションモデルを構築しシミュレーションモデルとメタヒューリスティックアルゴリズムを掛け合わせて利用することがあります。
これらの内、もっとも効果があるのは独自のアルゴリズムを作成して検討することですが、このためには非常に高度なアルゴリズム実装力と現場のドメイン知識が必要になります。また、該当の問題に特化したアルゴリズムになるため、少し問題の特徴が変わっただけでアルゴリズムを使いまわすことができないというデメリットがあります。一方、問題を数理モデルやシミュレーションモデルとして表現して求解することは、独自のアルゴリズムを考えるよりは容易く実現でき、スモールスタートしやすい技術になります。
推奨されるアプローチ
計画問題に取り組むためにはある程度のデータがすぐに取り出すことができる必要があります。情報の標準化ができ、データの収集・蓄積を経て、データを軸にした機能間連携が図られるようになったタイミングで計画問題について本格的に考えるようになった時、CTCではシミュレーションモデルもしくは数理モデルを構築を構築することを最初の取組みとしておすすめしています。モデルを用意することで、パラメータを変えたときのライン能力の分析が可能となり、計画問題を解く上で有効な複数のシナリオの分析が行えるようになりからです。また、モデルを構築することで、問題や要件に対して深く理解することができるため、専用のアルゴリズムを作る際にも有効になります。汎用的な数理モデルやシミュレーションモデルで効果がでないことが分かったときに専用のアルゴリズムを作成することを検討していきます。
おわりに
本稿では、製造業分野における計画問題に対して最適化技術を使ったアプローチをご紹介しました。ファーストステップとしてシミュレーションモデルを構築し、検証のための仮想空間を用意すること、さらにそのシミュレーションモデルを使ってヒューリスティック技術を使い効率的な組み合わせの探索を行うこと、あるいは数理モデルを構築し数理最適化ソルバーを使って最適解を求めることをご紹介しました。そしてその次の段階としてその課題に特化した専用のアルゴリズムを作成するというプロセスをご紹介しています。実際の進め方においてはいきなり数理モデルを構築することが有効な場合もありますし、シミュレーションモデルのみで課題が解決する場合もあります。課題に応じた適切な技術の選定の段階からCTCはサポート可能ですので、ご興味があれば上記IntelligentTwinサービスをご覧ください。