モデルベース開発(MBD)とは? 求められる背景とメリット、課題を解説
近年、自動車業界を中心に、医療機器業界や産業用ロボット業界など、さまざまな業界で“モデルベース開発”(MBD:Model Based Development)が活用されています。
製造業に携わる担当者のなかには、「モデルベース開発では具体的にどのようなことを行うのか」「モデルベース開発のメリットを知りたい」とお考えの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、モデルベース開発の概要をはじめ、導入のメリットや課題を解説します。
目次[非表示]
- 1.モデルベース開発(MBD)とは
- 2.モデルベース開発が導入されている背景
- 2.1.①企業間・部署間の連携強化
- 2.2.②開発スピードの短縮
- 2.3.③開発コストの増加
- 3.モデルベース開発のメリット
- 3.1.①コスト削減
- 3.2.②開発スピードの向上
- 4.モデルベース開発の課題
- 5.伊藤忠テクノソリューションズのモデル開発に関するサービス
- 6.まとめ
モデルベース開発(MBD)とは
モデルベース開発とは、コンピューター上に数式で作成された“モデル”を用いて、シミュレーションと同時に設計開発を進めていく手法のことです。
モデルは“動く仕様書”であり、システムを構築する制御や制御対象を仮想環境に再現することで、設計工程での検証が行えます。
また、専用ツールを使うことで、モデルをCコードに自動で変換できるため、手作業でプログラミングを行う必要がありません。そのため、紙やフローチャートを用いる従来の手法よりも、開発時間を短縮化・効率化できます。
さらに、モデルベース開発に関連する計算高速化の手法に、モデルの代わりに機械学習を活用して、計算・予測を行う“サロゲートモデル”という手法もあります。
サロゲートモデル詳細に関しましてはこちらをご参照ください。
モデルベース開発が導入されている背景
さまざまな業界でモデルベース開発が導入されている3つの背景を解説します。
①企業間・部署間の連携強化
モデルベース開発が着目されるようになった背景には、製造業における企業間の連携を強化する“SURIAWASE2.0”の存在があります。
SURIAWASE2.0とは、2015年より経済産業省主導で実施された“自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会”による構想のことです。
企業間の“すり合わせ”をデジタル技術であるモデルベース開発によって強化することが目的となります。企業の垣根を越えてモデルを共有することで、自動車業界全体の効率化が期待できます。
また、シミュレーションの結果を目で見て理解できるため、異なる分野間でもスムーズに意思疎通を図れることもメリットの一つです。
さらに、モデルを共有することで、企業間だけでなく、部署間の連携にも役立ちます。
②開発スピードの短縮
開発スピードの短縮が求められるようになった点も、モデルベース開発が導入されている理由の一つです。
自動車業界では現在、新型車の開発期間が圧縮される傾向にあり、それに伴って車載システムの開発工数も圧縮されつつあります。
従来の開発手法では、検証のためにハードウェアを製作する必要があり、製作が遅れるとその分ソフトウェアの検証工程にも影響してしまいます。また、仕様書を基に手作業でプログラミングを行うため、その工程においても工数がかさんでしまうことになります。
そこで、モデルベース開発を導入して、開発スピードの短縮に貢献しています。
③開発コストの増加
車載システムを中心に開発コストが増加傾向にあるため、モデルベース開発によってコストを抑えることも導入する背景の一つです。
近年の車載システムの開発現場では、膨大な試作を作成することが求められる傾向にあります。
また、昨今の自動車は電子部品が多用されているため、その一つひとつに開発コストが発生しています。
出典:経済産業省 『「組込みシステム基盤開発事業」の概要』
モデルベース開発のメリット
モデルベース開発には、2つのメリットがあります。
①コスト削減
モデルベース開発を導入することで、工程の一部を仮想環境で行えるため、コストの削減につながります。
モデルベース開発では、従来のハードウェアによる試作を必要とせず、仮想環境で検証を行うことが可能です。
たとえば、自動車の外装の衝突性能を検証する際に、モデルベース開発を導入したケースがあります。このケースでは、解析精度が上がることで、設計変更による時間・コストのロスを削減することに成功しました。
出典:経済産業省『令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策』
②開発スピードの向上
モデルベース開発では、プログラミングの際に手入力を行う必要がないため、開発スピードの向上も期待できます。
仮想環境で再現したモデルを基に検証を行い、モデルからCコードに自動で変換することで、工数を短縮することが可能です。
モデルベース開発の課題
モデルベース開発は、コスト削減や開発スピードの向上がメリットですが、以下のような課題もあります。
①モデル開発技術の習熟に時間がかかる
モデルベース開発には専門的な知識と技術を要するため、未経験者がモデルベース開発を行う場合は、技術の習得に時間がかかります。
計算時間が数日~数週間かかるシミュレーションを何度も実行するのは、ハードウェアによる試作を繰り返すことと同じく、開発の時間スケールに相応しくありません。
モデルベース開発では、開発の時間スケールに相応しくするために、モデルリダクションのような計算時間が比較的短い解析モデル(シミュレーション)の作成技術を習得する必要があります。
②モデルのインターフェースを共通化する必要がある
企業によって、開発に使用しているモデルのインターフェースが異なることも課題の一つです。
企業間で連携をとるには、モデルのインターフェースを共通化しなければなりません。そのため、企業間でモデルを流通させる場合は、ツールの統一が求められます。
しかし、すべての企業で同じツールを導入することは難しいため、異なるツールでもモデルを使用できるように、インターフェースの共通化が必要です。
なお、FMI(Functional Mock-Up Interface:ファンクショナル・モックアップ・インターフェース)を活用することで、ツールに依存せずに異なるツール間で同じモデルを共有できます。
出典:経済産業省『自動車開発におけるプラントモデルI/Fガイドライン』
伊藤忠テクノソリューションズのモデル開発に関するサービス
伊藤忠テクノソリューションズでは、モデル開発技術の構築や実用モデルの開発に関するサービスを提供しています。
提供するサービスは、求められる仕様と構成要素の相互依存関係を整理・確認する“要因の見える化”や“要因分析”、“物理モデル構築(定式化)”などが挙げられます。また、それらを踏まえた“モデルリダクション”と“システムシミュレーション”で構成されます。
要因分析やシステムシミュレーションでは、要素間・サブシステム間の相互作用を考慮するため、FMIなどを活用して複数の解析ツールを連携します。
これらのサービスにより、モデルベース開発で求められる物理現象や3Dモデルの簡素化、1Dモデルへの抽象化などをご支援いたします。
伊藤忠テクノソリューションズでは、モデルベース開発に必要な実用モデルの開発やシステム開発に関する技術の提供を行っております。詳しくは下記資料をご覧ください。
まとめ
この記事では、モデルベース開発について以下の内容を解説しました。
- モデルベース開発の概要
- 導入されている背景
- モデルベース開発のメリット
- モデルベース開発の課題
- 伊藤忠テクノソリューションズのサービス
モデルベース開発には、開発コストの削減や工程の効率化といったメリットがあります。
一方で、専門性が求められる、モデルの開発の工数が増える、企業間でインターフェースを共通化する必要があるといった点が課題として挙げられます。
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