
第3回:デジタルツインプラットフォーム徹底比較|都市・建設・エネルギー業界での選び方
はじめに
前回の記事では、都市インフラ・建設業界・エネルギー分野におけるデジタルツインについて、導入メリットと課題を紹介しました。
各分野でのデジタルツインの成功のためには、プラットフォームの適切な選定が重要です。今回は、主要なデジタルツインプラットフォームの特徴を比較し、業界ごとの選定ポイントを解説します。
目次[非表示]
プラットフォーム選定の重要性
デジタルツインは3Dモデルの表示する機能だけでなく、リアルタイムデータの統合、AIによる分析、IoTとの連携など多岐にわたる機能を必要とします。
今回解説するプラットフォームにはそれぞれ得意分野と苦手分野があり、目的に合ったプラットフォームを選ばなければ導入効果が限定的になります。費用対効果の低減のみならず、逆にコストや運用負荷が増大する可能性もあるため、プラットフォームの選定は慎重に検討すべきです。
選定時のチェックポイント
前提として、分野を問わずプラットフォーム選定に重要なポイントを列挙します。
- 自社の目的に合致しているか(都市計画、施工管理、設備保全など)
- 既存システムとの連携が可能か(GIS、BIM、ERPなど)
- セキュリティ・法制度への対応状況
- 導入実績とサポート体制
- 拡張性と将来性(AI、AR/VR、5Gとの連携)
デジタルツインの主要なプラットフォーム
デジタルツインに利用できるプラットフォームを10種紹介します。
プラットフォーム名 | 対象領域 | 中核技術 | 対応仕様・標準 |
|---|---|---|---|
Autodesk Construction Cloud | 建設・都市 | BIM、AI、クラウド、Forge API | Revit、AutoCAD、IFC、PDF、200以上の外部連携 |
Bentley iTwin Platform | 建設・都市・交通・エネルギー | BIM、IoT、リアリティキャプチャ、iModel、iTwin.js | OpenRoads、OpenBuildings、IFC、iModel、Omniverse連携 |
NVIDIA Omniverse | 都市・交通・エネルギー | USD、RTX GPU、AIレンダリング、物理シミュレーション | USD、glTF、Cesium連携、複数ツールとの互換性 |
Azure Digital Twins | 都市・交通・エネルギー | IoT Hub、Graphベースモデリング、Power BI、AI | DPS、IoT Plug and Play、Microsoft製品との統合 |
Siemens Grid Twin / MindSphere | エネルギー・交通・製造 | IoT、AI、PLM、Xcelerator、Omniverse連携 | SimReady、Teamcenter X、OPC UA、MQTT |
Hitachi Lumada | 建設・都市・エネルギー | IoT、AI、ビッグデータ、クラウド | Lumada Edge、Hitachi Cloud、ISO/IEC対応 |
IBM Maximo Application Suite | エネルギー・交通・製造 | IoT、AI、資産管理、予知保全 | Maximo Asset、Monitor、Visual Inspection |
NEC デジタルツイン | 都市・農業・インフラ | 映像解析、AI、IoT | NEC AI技術群、画像認識、センサ連携 |
Cesium | 都市・交通・エネルギー | 3D地理空間可視化、WebGL、glTF、3D Tiles | glTF、3D Tiles、GeoJSON、KML、CZML |
PLATEAU | 都市、交通、建設 | 3D都市モデル、CityGML、オープンデータ、WebGIS | CityGML、GeoJSON、国土交通省標準仕様、LOD対応 |
各プラットフォームの強みと弱み

プラットフォームには、幅広い分野に適用しやすい汎用型、特定分野に必要な機能が充実している特化型があります。両者の強みを列挙し、紹介したプラットフォームの得意分野と苦手分野を記載します。
汎用型(例:Azure Digital Twins)
- 幅広い業界に対応
- 拡張性と柔軟性が高い
- 自社開発との連携が可能
特化型(例:Bentley iTwin、Siemens Grid Twin)
- 業界特有の機能が充実
- 導入までのスピードが速い
- サポート体制が整っている
プラットフォーム名 | 特筆機能 | 得意分野 | 苦手分野 |
|---|---|---|---|
Autodesk Construction Cloud | 施工管理、品質・安全管理、Construction IQによるAI分析 | 建設BIMに特化、Revit連携、施工管理に強い | 運用・保守フェーズには弱く、都市スケールの統合は限定的 |
Bentley iTwin Platform | SYNCHROによる4D施工、iTwin IoT、リアルタイム更新 | インフラ・土木に強く、リアリティキャプチャとIoT統合が得意 | 操作が複雑で学習コストが高い、軽量表示には不向き |
NVIDIA Omniverse | リアルタイム・高精度可視化、VR/AR対応 | 高精度3D可視化とリアルタイムコラボに強い、物理シミュレーション対応 | 高性能GPUが必要、建設業務向け機能は限定的 |
Azure Digital Twins | スマートシティ向け、センサ連携、リアルタイム監視 | スマートシティ・IoT統合に強く、Microsoft製品との親和性が高い | BIMや3D可視化機能は限定的、建設業界向けには汎用的すぎる |
Siemens Grid Twin / MindSphere | 電力網・製造設備の監視、生成AIによる可視化 | エネルギー・製造業に強く、PLMや産業機器連携が得意 | 建設・都市設計には不向き、導入コストが高い |
Hitachi Lumada | 予知保全、エネルギー管理、社会インフラ向け | 社会インフラ・製造向けのデータ統合と予知保全に強み | グローバル展開やBIM連携は限定的、可視化機能は弱め |
IBM Maximo Application Suite | 設備保守、作業管理、AIによるリスク分析 | 設備保守・資産管理に特化、AIによる予知保全が得意 | 3D可視化や都市スケールの統合には不向き |
NEC デジタルツイン | インフラ点検、農業支援、国内展開に強み | 画像認識・映像解析に強く、農業・インフラ点検に特化 | BIMやIoT統合には弱く、汎用性は限定的 |
Cesium | 地球規模の3D表示、CesiumJSによるWeb可視化 | 地理空間3D可視化に特化、Webベースで軽量な都市表示が得意 | BIMやIoT連携は限定的、分析・AI機能は弱い |
PLATEAU | 日本全国の都市3Dモデルをオープンデータとして提供、都市計画・交通・防災などのシミュレーションに活用可能、Webビューアあり | 都市スケールの3Dモデル整備、公共データの活用、自治体・研究機関との連携 | リアルタイムIoT連携、AIによる予測分析、施工・設備保守との統合 |
業界別選定ポイント
これまでの情報から、本シリーズで着目している都市インフラ・建設業界・エネルギー分野での選定ポイントを列挙します。
都市インフラ向け
- GISとの連携が重要(地理空間情報の活用)
- 行政システムとの親和性
- 住民サービスや災害対策への応用
建設業界向け
- BIMとの統合が必須(設計・施工・維持管理)
- 現場とのリアルタイム連携(IoT、ドローン)
- 施工管理や資材最適化への対応
エネルギー分野向け
- 設備の予知保全機能
- 電力需給の最適化(AI・シミュレーション)
- 再生可能エネルギーとの連携
おわりに
デジタルツインの導入は、単なる技術選定ではなく、業務プロセスや組織体制の変革を伴います。目的に応じたプラットフォームを選定することで、都市・建設・エネルギー分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させることができます。
次回は、デジタルツインの未来と戦略的活用について、企業や自治体が取るべきアプローチを解説します。
伊藤忠テクノソリューションズの取組み

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