
【五洋建設様インタビュー】地盤改良をデジタル技術で革新 「Gi-CIM」が導く“見える化施工”の新時代(前編)
五洋建設株式会社 土木部門 土木本部 土木設計部 担当部長 堤彩人氏(写真右から2番目)
五洋建設株式会社 土木部門 土木本部 土木設計部 主任 田中廉氏(写真右)
五洋建設株式会社 土木部門 土木本部 土木設計部 小原奈々氏(写真中央)
建設業界において、技術者たちを長年悩ませ続けてきたブラックボックス。それが「地中」。
橋梁や高層ビルといった地上構造物であれば、建設プロセスは衆目にさらされ、出来形も目視で確認できる。しかし、地盤改良工事はそうはいかない。成果物は全て、深い土の中に埋まってしまうからだ。見えないものをいかに管理して、品質を担保するか。これはまさに、暗闇の中で針の穴を通すような、極めて高度で繊細な課題だ。
この課題を解決するため、海洋土木のリーディングカンパニーである五洋建設と、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)がタッグを組み、先進的なシステム「Gi-CIM」を作り出した。
2016年の開発スタートから約10年。当初は設計データを可視化する静的なモデリングツールとして誕生したシステムは、現場の泥臭い改善と新しいデジタル技術が融合し、今や重機とクラウドがリアルタイムで連携する、動的な施工管理システムへと大きな進化を遂げている。
さらに、災害復旧工事での住民のケアや、若手技術者への技能伝承という領域にまでその価値を広げつつある。「見えない」からこそ生まれる不安を、「見える」という安心に変える──その技術は、単なる業務効率化ツールを超え、建設DXの新たな可能性を示している。
なぜ、「見えない地中」に挑んだのか。
プロジェクトをけん引してきた五洋建設の堤彩人氏、田中廉氏、小原奈々氏と、開発パートナーとして伴走しているCTCの藤田未央子氏が、Gi-CIM開発の経緯と今後の展望をうかがいました。
※以下、敬称略
「他人事」では済まされない 他社の施工トラブルで感じた危機感
藤田:まず、Gi-CIMを開発するきっかけについて教えてください。
堤:ある空港の地盤改良工事において、他社の施工トラブルが問題になったことが発端です。地盤改良工事は対象が地中であるがゆえに、施工中の要素が目に見えません。出来形も、地中の埋設物も、あるいは施工によって周辺の構造物がどう動いたかという変位も、施工中は直接目で見て確認できないのです。
「見えない」ということは、品質管理を難しくしている最大の要因です。熟練の職人の経験や勘に頼らざるを得ない部分も多く、同様のトラブルが我々の現場で起きた場合の責任は重大です。それを未然に防ぐためには、地中を「見える化」する技術が必要だと痛感しました。
藤田:具体的にどのような工法で課題を感じていたのでしょうか。
堤:特に問題意識を持っていたのは、空港の滑走路下での「薬液注入工法」です。曲がり削孔を伴う難易度の高い工法ですが、地中が見えないため狙った位置への削孔が難しく、薬液注入時には地盤が隆起してしまうなどの問題が発生し、計画通りに施工ができないことが課題でした。
藤田:そこで解決策を検討し始めて、CTCにご相談いただいたというわけですね。
堤:はい。当時は、国土交通省が「i-Construction」を掲げ始めた時期でもありました。BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)という概念が広まる中で、当社もCIMの導入によって課題を解決できないかと考えていました。その過程でCTCさんが地盤改良工事向けのCIMソリューション「C-Grout」を提供していることを知り、この技術をベースに、当社が実現したい機能を実装できないかと相談したのが始まりです。

藤田:印象的だったのは、最初に打ち合わせをした際、堤さんが明確なロードマップを既に描かれていたことです。A3用紙の裏面までびっしりと、ステップ1で見える化、ステップ2で解析との連携、その先にはシミュレーションまで、将来のビジョンが出来上がっていました。ここまでの構想を持って相談にいらっしゃるケースはまれですので、非常に驚いたことを覚えています。
「数万個のモデルを手作業で作る」からの脱却
藤田:CTCのC-Groutをベースに開発されたGi-CIMですが、どのような特徴があるのか教えていただけますか。
堤:Gi-CIMの開発で最も重視したのは、高機能な解析ツールを作ることではなく、「現場の職員が誰でも簡単に使えるツール」にすることでした。
理由は、地盤改良工事は扱うモデルの数が桁違いだからです。地盤改良の大規模な現場では数万個ものモデルを作る場合があり、これをCADオペレーターが1個ずつ手作業でモデリングしていたら、膨大な時間とコストがかかってしまいます。
また、現場は生き物です。施工が進むたびに状況は変わります。その都度オペレーターに依頼してモデルを作り直していては、現場のスピード感に追いつきません。現場担当者が自分でサッと直せるレベルの手軽さが必要でした。
藤田:そこで着目されたのがC-Groutの「パラメトリックモデリング」ですね。
堤:Excelに「長さ」「径」「座標」「角度」などの数値を入力し、ワンクリックで3Dモデルが自動的に生成されるため、BIM/CIMの専門知識がない職員でも扱えます。
堤:五洋建設ならではの機能拡張も行いました。C-Groutは元々、単純な形状のモデル化がメインで、曲がり削孔のような複雑形状には未対応でした。
そこで、地中で曲がる削孔の軌跡や、施工管理上の閾値なども表現できるよう、表現力を大幅に拡張してもらいました。単に形を作るだけでなく、施工日や薬液注入量などの施工実績を属性情報としてモデルに紐づけられるようにし、物理探査の結果やサウンディング試験などの品質検査結果も3Dモデルに統合できるようにしました。3Dモデル上の任意の箇所をクリックすれば、いつ、どのような施工をしたか、その後の品質検査結果はどうだったかが分かるデータベースとしての機能も実装しています。
現在、Gi-CIMの対象エリアは全国に及び、対応工法も曲がり削孔式浸透固化処理工法の他、サンドコンパクションパイル工法、静的圧入締固め工法、深層混合処理工法などを幅広くカバーしています。
藤田:現場ごとに「こういうデータも取り込みたい」「こんな機械のデータと連携したい」というご要望が出るので、カスタマイズをその都度重ねましたよね。地盤改良工事が始まるまでの短い期間に追加開発を行うなど、かなりアジャイルな動きが求められ、CTCとしても技術力を試される日々でした。

次回予告
次回のブログでは、現場でのGi-CIM活用事例や、今後の展望についてご紹介します。
インタビュイー紹介
堤 彩人 氏

北海道大学大学院工学研究科環境循環システム専攻博士課程修了。2011年より独立行政法人港湾空港技術研究所にてX線CTを用いた地盤可視化や杭基礎メカニズムの研究に従事し、地盤工学における可視化の重要性を深く認識。2013年に五洋建設株式会社へ入社し、技術研究所にて高機能地盤材料や軟弱地盤対策の技術開発に取り組む。現場支援を通じて施工実務における地中情報の不確実性を痛感し、解決策を模索。2016年より本社土木設計部にてi-Constructionの潮流を捉えた地盤情報のデジタル化・可視化構想を「Gi-CIM」として具現化。現在はプロジェクトリーダーとして企画・開発から現場運用までを一貫してマネジメントし、地盤分野のDXを主導している。
田中 廉 氏

新潟大学工学部建設学科卒。2014年に五洋建設株式会社へ入社。主に海上土木工事の施工管理業務に従事し、現場特有の管理的課題を深く理解する。2023年より一般財団法人国土技術研究センターへ出向し、国土交通省発注の受託業務等を通じてDX推進の潮流に携わる。2025年より本社土木設計部に所属。豊富な現場経験と出向で得た知見を活かし、「Gi-CIM」の機能拡張および現場実装を主導することで、開発と運用の両面から現場の生産性向上支援に取り組んでいる。
小原 奈々 氏

日本大学理工学部土木工学科卒。2020年に五洋建設株式会社へ入社。主に国土交通省発注の海上工事にて施工管理業務に従事し、BIM/CIM活用工事の実務を通じてデジタルツールの有効性と運用上の課題を経験する。2024年より本社土木設計部地盤耐震グループに所属。現在は施工管理の実務経験を活かし、最も現場技術者に近い視点から「Gi-CIM」の機能改良および現場導入支援を担当。現場の声を反映した使いやすいシステムの構築と、円滑な現場定着を推進している。
インタビュアー紹介
藤田 未央子 氏

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 科学システム本部 科学営業第 3 部 主任
建設分野向けBIM/CIMソリューションの開発、サポート、受託業務を担当。
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