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【五洋建設様インタビュー】地盤改良をデジタル技術で革新 「Gi-CIM」が導く“見える化施工”の新時代(後編)

五洋建設株式会社 土木部門 土木本部 土木設計部 担当部長 堤彩人氏(写真右から2番目)
五洋建設株式会社 土木部門 土木本部 土木設計部 主任 田中廉氏(写真右)
五洋建設株式会社 土木部門 土木本部 土木設計部 小原奈々氏(写真中央)

前回の記事では、五洋建設様でGi-CIM開発の経緯からGi-CIMの特徴などを紹介していただきました。今回は、現場でのGi-CIM活用や今後の展望について焦点を当てます。

被災地で住民の心を動かした「可視化」の力

藤田:では、Gi-CIMの活用についてお聞かせいただけますか。

田中:活用フェーズは、大きく分けて「静的管理」と「動的管理」があります。開発初期から2021年までは、Excel入力で計画図や実績図を作成するパラメトリックモデリングツールとしての運用が中心の「静的な出来形管理」の時代でした。

この時期は設計段階での利用が主で、設計図面を基に削孔ラインを設定し、可視化して逸脱を防いでいました。施工後は実測データから出来形モデルを再構築して、計画との差を明確化していました。

藤田:どのような現場でお使いになっていたのでしょうか。

堤:一例が、地震で被災した市街地の災害復旧工事です。設計図を基に計画モデルを作り、施工後に実績データを入れて比較するという使い方をして、効果は絶大でした。

特に印象に残っているのが、北海道で発生した地震の災害復旧工事での事例です。液状化対策として、住宅が建ち並ぶ市街地の地下に薬液を注入する工事でした。震災で傷ついた街の復旧工事であり、住民の方が生活されている家の真下、足元で工事をするわけですから、極めてデリケートな対応が求められます。

「家の下の地盤がまた液状化するのではないか」「工事で家が揺れるのではないか」「本当に家は傾かないのか」など、被災された住民の方々の不安は計り知れません。そこで当社は、Gi-CIMで作成した3Dモデルを単なる施工管理ツールとしてだけでなく、コミュニケーションツールとしても活用することにしました。

藤田:具体的にはどのようなことを?

堤:Gi-CIMで作成した3Dモデル画面のキャプチャー画像を活用し、地中の施工状況を分かりやすく描いたポスターを作成して、住民の方にお渡ししました。「地上からは何も見えませんが、地下ではこのように家を支える工事をしています」と視覚的に示したところ、ご自宅の下で行われている地盤改良の様子を具体的にイメージしていただくことができ、大変喜んでいただけました。

技術的な側面でも大きなメリットがありました。工事では住宅の下に薬液を注入しましたが、改良体の施工によって地下水の流れが遮断され、市街地全体の地下水位が上昇する恐れがありました。そこでGi-CIMを用いて、施工の進捗度や地下水位変動を3Dでモデル化し、地下水位の上昇状況を管理する体制を整えました。対策の範囲や順序を発注者と協議する際にも、3Dモデルを活用しました。

このデータを基に、地中に入り込めるVRコンテンツも制作しました。2メートルくらいの球体状の薬液改良体が、自分の足元や頭上にびっしりと並んでいる様子を、実際のスケール感で体験できるものです。これを展示会で公開したところ、地上からは分かりにくい地中作業を、実際のスケールで再現することで直感的に理解してもらえました。

他の事例でも、空港滑走路の液状化対策、岸壁の耐震改良、土砂処分場の地盤改良、タンク基礎の液状化対策など、数多くの現場でGi-CIMは施工精度向上に寄与しました。現場からは「複雑な削孔軌跡を可視化することで、地中の状況をイメージしやすくなった」「薬液注入と地表面隆起量の関係を可視化することで、両者の因果関係の把握が容易になり、後続の注入計画を立案しやすくなった」といった反響を得られています。

海上の現場を変えたリアルタイム連携

藤田:2022年以降、Gi-CIMは新たなフェーズに入っていきましたね。

田中:「静的管理」から「動的管理」への進化です。これまではExcelへの入力作業が必要でしたが、施工機械と連携してリアルタイムにモデリングを自動で行う機能を実装しました。

Excelの入力方式はモデルを簡単に作成できる一方で、手入力が必要な手間が残っていました。施工中に3Dモデルでモニタリングできれば、リスク回避や品質向上に加えて、作業の省力化もかなえられると考えて、リアルタイムモデリング機能の追加を決断しました。

機能の実装によって、現場職員による特別な操作はほぼ必要なくモデルを自動で作成できるようになりました。施工状況を現場事務所からリアルタイムで確認でき、現場の常駐職員を不要にできるなど省人化の効果もありました。

藤田:最新事例では、この仕組みが海上のプラスチックボードドレーン工法にも実装されているそうですね。

事務所から施工状況をリアルタイムで確認できるようになった

田中:はい。まず、地盤改良の作業船に搭載された施工管理装置から施工データをリアルタイムで出力し、専用アプリでモデリング用データに変換します。そのデータをクラウド経由で現場事務所のGi-CIMに自動的に取り込むという流れで、職員が操作せずに3Dモデルが動的に自動更新される仕組みです。

これまで施工状況を確認するためには、作業船に乗り込み、操作室に設置された施工管理装置を確認しなければなりませんでした。現在は、現場の事務所にいながらモデリングされたGi-CIM上での施工状況をリアルタイムで確認可能です。発注者や検査員が事務所を訪れて、Gi-CIM を見ながら施工状況を把握するケースが増えています。

堤:一口で「施工データ」と言っても、地盤改良機や計測機器はメーカーごとにデータの出力形式がバラバラです。異なるデータ形式を、どのようにGi-CIMに取り込める形に整形するかは、泥臭い地道な調整の積み重ねがありました。

田中:そうですね。その調整こそが、Gi-CIMの汎用性を高め、多くの現場で使えるシステムに進化できた一つの要因だと思います。

可視化から解析へ──広がる Gi-CIM の進化

藤田:Gi-CIM は、地中の可視化によって施工の精度と効率を高めてきました。活用は現場を超えて、社会や次の技術領域に広がっていますね。

CTCは施工データをリアルタイムに見るだけでなく、予測にも生かせるのではと考えています。改良体の配置が地盤変状にどのように影響するかをシミュレーションできれば、計画最適化につながるのではないでしょうか。

堤:五洋建設も開発当初から「解析との融合」を視野に入れていました。施工状況をリアルタイムで把握できる仕組みを確立した今、次は予測やシミュレーションを取り入れ、「未来を見通すGi-CIM」へ発展させたいと計画しています。

また、蓄積したデータをナレッジ化して、設計や施工に還元することで、施工管理の高度化も進むはずです。この部分はCTCさんとの共創に期待しています。

次世代と共に、“見えない地中”に未来を描く

藤田:Gi-CIMによって変わりつつある地盤改良工事ですが、今後も発展させるためには、次世代への技術継承も欠かせませんよね。

田中:われわれが所属する土木設計部は若手の異動が多く、技術伝承のために経験者と若手をペアで案件を担当するようにしています。Gi-CIMやCADなどを初めて扱う人でも業務に入りやすいように、運用マニュアルや前処理ツールを整備しています。

堤:これまでGi-CIMを活用した46現場のモデルを登録し、データベース化して全支店から閲覧できる仕組みも構築しています。どの工法で、どのようにGi-CIMを活用したかが一目で分かり、新しいメンバーが活用方法を学べるようになっています。工事現場で培ったノウハウや失敗例も共有することで、次の現場や新システム開発につながっていると感じますね。

小原:地盤は目に見えないので分かりにくいと思われがちですが、Gi-CIMはその常識を変えようとしています。複雑な地盤改良の世界も、3Dモデルなら一目瞭然です。若手や経験がないメンバーも含めて誰もが納得できる理論とデータの世界を実現するために、CTCさんと取り組みを進めています。

藤田:AI活用の展望もありますね。例えば、Gi-CIMの蓄積データを活用し、AIが現場で起きたトラブルへの解決策を提案できるようになれば、熟練者の経験値をデジタル技術によって若手に受け継ぐことができます。

小原:われわれは今、見えない地中の中に“未来”を描いています。「見えないから怖い」「分からないから難しい」ではなく、「見えるから面白い」「データがあるから挑戦できる」、そう思える世界をデジタル技術の力でかなえたいと考えています。

Gi-CIMで継承する地盤改良技術のDNA

「見えないもの」を恐れるのではなく、デジタル技術によって「見えるもの」へと変える。五洋建設様とCTCの挑戦は、地中のブラックボックス化という長年の課題を解消し、現場に「確かな安心」を定着させようとしている。

2016年、A3用紙に描かれた未来図は、約10年の時を経て現実のものとなった。今、その図面にはまた新しい“未来”が書き加えられようとしている。先進技術との共存、デジタルツインによる予測、そして次世代への継承──土の中のDX革命は、次のステージへの挑戦が始まろうとしている。

インタビュイー紹介

堤 彩人 氏


北海道大学大学院工学研究科環境循環システム専攻博士課程修了。2011年より独立行政法人港湾空港技術研究所にてX線CTを用いた地盤可視化や杭基礎メカニズムの研究に従事し、地盤工学における可視化の重要性を深く認識。2013年に五洋建設株式会社へ入社し、技術研究所にて高機能地盤材料や軟弱地盤対策の技術開発に取り組む。現場支援を通じて施工実務における地中情報の不確実性を痛感し、解決策を模索。2016年より本社土木設計部にてi-Constructionの潮流を捉えた地盤情報のデジタル化・可視化構想を「Gi-CIM」として具現化。現在はプロジェクトリーダーとして企画・開発から現場運用までを一貫してマネジメントし、地盤分野のDXを主導している。

田中 廉 氏


新潟大学工学部建設学科卒。2014年に五洋建設株式会社へ入社。主に海上土木工事の施工管理業務に従事し、現場特有の管理的課題を深く理解する。2023年より一般財団法人国土技術研究センターへ出向し、国土交通省発注の受託業務等を通じてDX推進の潮流に携わる。2025年より本社土木設計部に所属。豊富な現場経験と出向で得た知見を活かし、「Gi-CIM」の機能拡張および現場実装を主導することで、開発と運用の両面から現場の生産性向上支援に取り組んでいる。

小原 奈々 氏


日本大学理工学部土木工学科卒。2020年に五洋建設株式会社へ入社。主に国土交通省発注の海上工事にて施工管理業務に従事し、BIM/CIM活用工事の実務を通じてデジタルツールの有効性と運用上の課題を経験する。2024年より本社土木設計部地盤耐震グループに所属。現在は施工管理の実務経験を活かし、最も現場技術者に近い視点から「Gi-CIM」の機能改良および現場導入支援を担当。現場の声を反映した使いやすいシステムの構築と、円滑な現場定着を推進している。

インタビュアー紹介

藤田 未央子 氏


伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 科学システム本部 科学営業第 3 部 主任
建設分野向けBIM/CIMソリューションの開発、サポート、受託業務を担当。

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