有限要素法による解析(FEA)で使用する材料物性値とは?同定手法、影響度の大きい特性とは
有限要素法とは、物理的な現象の解析に用いられる数値解析手法の一種です。
ここでは、この有限要素法で使用する材料物性値について紹介します。使用する材料物性値とは、材料の機械的、熱的、電気的な性質を表すパラメーターであり、有限要素法における解析精度に直接影響を与えます。
本記事では、この材料物性値について、どんな材料物性値を、どう取得するかについて、一例を紹介します。
目次[非表示]
- 1.物性値同定
- 2.材料試験
- 3.材料試験による規格
- 4.ひずみ速度依存性
- 5.応力三軸度
- 6.有限要素法による適用
- 7.伊藤忠テクノソリューションズが提供するCAEアドバイザリサービス
- 8.まとめ
物性値同定
有限要素法では、材料物性値を使用して解析を行いますが、精度良い解析を行うには、精度良い材料物性値の入手が不可欠です。
有限要素法で使用する材料物性値は、一般的に材料試験を行い、その結果から算出されます。この算出過程を物性値同定といい、重要な作業となります。材料試験の方法には、引張試験、圧縮試験、曲げ試験などがあります。
また、結果の利用については、材料のばらつきなど不確実性を考慮することが必要な場合もあります。
材料試験
材料試験は、材料の特性を取得、評価するための重要な手法です。
様々な種類の試験がありますが、構造解析に関連した試験のうち、最も一般的な試験は、静的引張試験であり、その目的の一つは、応力-ひずみ関係の取得です。
この試験により、材料の強度や弾性率、破断強度などの特性を定量的に評価することができます。また、引張荷重を繰り返し負荷した試験は、疲労試験とよばれ、材料の疲労特性を評価するために使用されます。
疲労試験では、繰り返し荷重の影響下で、材料がどのように変化するか、さらには、疲労寿命を計測することができます。
引張試験機の例
画像引用元:株式会社島津テクノリサーチ
材料の一軸引張試験では、試験機に装着したロードセルによって荷重を測定したり、試験片にひずみゲージを貼ってひずみを計測したり、試験時の状態をカメラで撮影し、試験片の変形状態を記録したりします。
ひずみゲージによる計測では、ゲージを張り付けた箇所のひずみが計測されますが、試験時の状態をカメラで撮影し、その画像処理で、広域なひずみの分布を計測する方法もあります。
これらの試験は、有限要素法の精度向上において重要な役割を果たしています。有限要素法の解析で使用する材料特性の精度を向上させることで、より正確な数値計算を行うことができます。
また、こうした試験を行い精度の高い材料物性値を得ることで、精度のいい解析が行え、それによって製品の耐久性、信頼性、そして安全性に関する検討が精度良く行うことができます。
材料試験による規格
材料試験については、JISなどの標準規格に基づいて実施されます。
試験片の形状から、試験速度など、様々な項目についての規定がされています。材料試験をこれらの規格に従って実施することで、材料の特性について、客観的な評価、比較を行うことができます。
試験自体に対してだけではなく、材料試験の結果に対しても同様です。材料の応力-ひずみ曲線は、最大応力や破断強度、弾性ひずみ限界、降伏点の決定に役立ちます。
JISなど規格で規定されている引張試験の試験片のイメージ図
材料試験は、種類によっては時間と費用がかかることがありますが、有効な投資です。
材料試験は、ここでは、有限要素法による解析を精度よく実施するために紹介しましたが、それだけではなく、材料分析や製品評価のために必要な重要なデータを提供してくれるため、今後ますます重要性を増していくでしょう。
構造解析で使用する静的な一軸の応力ひずみ曲線を取得するための材料試験として静的な一軸引張試験について紹介しましたが、次に、より精度よく解析を行うための高度な材料の特性を取得する事例について紹介します。
ひずみ速度依存性
ひずみ速度依存性の現象は、材料のひずみ速度が異なる場合の特性の変化です。
一般的な静的引張試験では、低速な速度で材料を引張ります。
一方、この速度をかなり高速にした場合、材料によっては、低速な場合の特性とは異なる特性を示すことがあります。これがひずみ速度依存性です。
引張速度の異なる応力ひずみ線図のイメージ
一般的に、なぜひずみ速度依存性が重要なのでしょうか?
それは実際の使用条件において、材料が非常に高速な力をうけ、高速に変形する場合に、その変形を精度よく再現するには、その速度での特性を正しく設定しておく必要があるからです。
材料の特性が速度によってどのように変わるかを理解することで、より正確なシミュレーションが可能となり、材料の設計と最適化に貢献します。
応力三軸度
応力三軸度は、材料の応力状態が三軸状態になっていることを意味します。
一般的に、応力ひずみ関係や破断ひずみなどは、一軸引張試験でその特性を取得します。しかし、材料によっては、材料の応力状態が異なる三軸状態にある場合、破断ひずみにおいて、異なる特性を示すことがあります。
破壊ひずみの応力三軸度依存のイメージ
材料試験では、異なる三軸状態を作り出すために、様々な試験片形状、試験治具を用いて試験を行います。
簡易的に、一軸引張試験で試験片形状を工夫して異なる応力三軸度状態を作り出す場合もあります。これにより、異なる応力三軸度状態の力学的特性を取得することができます。
有限要素法による適用
有限要素法による解析イメージ
物性値同定が適切に行われると、有限要素法を使用しての評価が正確に行うことができます。
例えば、また、材料試験の結果を基に有限要素法により部品のひずみ分布や強度の予測を行うことができます。これにより、材料の構造設計や品質管理に役立てることができます。
また、有限要素法は、使用する材料の選定材料としても広く使用されています。例えば、同じ部品でも異なる材料特性の物性値を用いて有限要素法の解析を行い、応力分布の比較などによって、目的に合致した材料を選択するための情報とするなどです。
以上のように、有限要素法と物性値同定、材料試験の応用は材料分析において重要な役割を果たしており、効率的な設計や品質管理につながります。
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まとめ
有限要素法で使用する材料物性値について、材料試験による特性の取得、物性値同定について説明しました。
また、少し高度な特性としてのひずみ速度依存性や応力三軸度についても説明しました。これらの材料特性の考慮は、構造の設計や材料選定において重要な場合があります。是非、ご利用ください。
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