衝撃波とは?音波とは何が違う?身近な現象をもとに原理をご紹介
「身の回りにある衝撃波を紹介してください。」という質問を受けたとしたら、皆さんはどのように答えますか?
恐らくほとんどの人は何とも答えられないのではないでしょうか?逆に衝撃波という言葉は聞いたことがあるけど具体的に何かわからないと思います。
衝撃波は実現象として存在するものなのですが、なかなか体験することはありません。しかし、だからといって今まで一度も体感したことがないという訳でもないのです。
本記事では、身近に体感できる衝撃波を紹介することで、皆さんに衝撃波というものを具体的にご理解いただければと考えています。
身の回りの衝撃波
誰でも日常で経験できる「衝撃波」として思い浮かぶのは「雷鳴」と「打ち上げ花火」です(図1)。
図1 誰でも日常で経験できる”衝撃波”
「雷鳴」はあたりが急速に暗くなり土砂降りになりそうな雰囲気に聞こえるあの雷から放たれる「ゴロゴロ」「ピカ」「ドドン」です。耳で聞くというよりも振動を肌で感じる感覚です。
まれに威力が大きい場合、「バン」という音とともに体全体に音の固まりが当たるような衝撃を受けた経験があるかもしれません。それはおそらく衝撃波に近いものを体験したと言ってよいでしょう。
ただし、雷は気象による自然現象であり、予定を立てて体験できるものではありませんし、そもそも近くに落雷する危険があるので体験している場合ではありません。速やかに避難するようにしてください。
一方、「打ち上げ花火」は夜空を彩る夏の風物詩です。コロナ明けによって各地で花火大会が再開されてうれしい限りです。打ち上げ花火の一般的な仕組みとしては様々な色に発光する多数の燃焼薬(「星」と呼ぶようです)を火薬により空中に飛散させます。
その際に発生する炸裂音が打ち上げ花火の音となります。この音で衝撃波を体感できる場合があるのです。ただし、打ち上げ花火と言っても玉の大きさはピンキリで、残念ながら通常の打ち上げ花火レベルでは衝撃波を体感するには威力が足りません。
尺玉クラスの花火を間近で観覧する必要があります。尺玉というのは玉の直径が1尺(約30cm)の倍数のサイズを持つもので、最大クラスでは四尺玉という直径120cmを超えるものがあります。開花したときの大きさが通常の花火の何倍も大きく、その迫力と壮麗さに度肝を抜かれること間違いなしです。
かなり昔の学生の頃に茨城県土浦の花火大会で初めて尺玉花火を観覧したのですが、そのときの衝撃をまだ覚えています。普通の打ち上げ花火が「ドン」だとすると、尺玉は「(一瞬静寂)ドドドーンッ」という威力が数倍増した感覚です。
なんの心構えもしていなかったので、夜空に大輪が広がる様子をポカーンと眺めるや否や、何かの”圧”が爆音とともに通過して尻もちをついてしまいました。かなり乱暴な言い方をすると「ドドドーンッ」という大音響と「ボゥ」という空気の”圧”を感じれば、これこそが衝撃波(に近いもの)と思っていただいても間違いではありません。
音波とは何か?
衝撃波について掘り下げる前に、”音波”について説明したいと思います。音波とは日常で皆さんが聞いている”音”そのものです。
目覚まし時計の音、電車の発車ベルの音、イヤホンから流れる音楽の音などが音波になります。これらは尺玉花火のように大音響ではなく、また、風圧を感じることはありません。音波は音源から空気分子の振動が耳まで伝わったものです。
この振動が伝わる速度を音速と呼びます。音速は通常約340m/s(1224km/h)の速度を持ち、これは新幹線の走行速度(320km/h)の約4倍に相当しますので、人間の感覚では「あっという間」になります。
なお、注意しなければならないのは、あくまで音源から耳まで伝播するのは空気分子の振動のみであり、空気分子自体が高速で移動して耳まで到達しているわけではありません。空気分子は始めの位置を一切移動せずに振動するだけです。その振動が隣の空気分子に伝わり、その振動がそのまた次の空気分子に伝わり・・・と振動のみが耳まで到達するのです。
衝撃波とは何か?
一方、衝撃波というのはどのような現象でしょう?少し難しい言葉で説明しますと「音速を超えて伝播する圧力の不連続面」となります。
音速というのは、例えば空気中であれば先ほど説明したように空気分子の振動の伝播速度(約340m/s)であり、衝撃波はこの音速を超えて(すなわち超音速で)伝わる空気分子中の波となります。圧力というのは空気中ですと気圧となります。
登山時や飛行機内で耳が聞こえにくくなるのは耳の内部よりも外の気圧が低くなるためです。「圧力の不連続面」というのは要するに「圧力が急激に高くなる」と言い換えてもよいでしょう。音波でも圧力は非常にわずかに変動しますが、ほとんど体感できないほど微小です。
一方、衝撃波は音波に比べると比較的大きな圧力変動となります。この圧力変動が大きくなればなるほど耳に到達したときの音が大きくなり、「衝撃音」になります。また、圧力変動が大きくなればなるほど、空気分子はその場で振動するだけでなく、位置自体が衝撃波が伝播する方向に少し移動します。これが「風圧」となります。
音波と衝撃波の違い
音波と衝撃波の違いを図で表したものが図2となります。
図2 衝撃波と音速の波形の違い
音速が(a)、衝撃波が(b)となります。音速は圧力のゆるやかな微小変動ですが、衝撃波は圧力が急激に高くなります。
これが「圧力の不連続面」であり、衝撃波そのものとなります。また、「急激な圧力上昇」と「音速を超えること」は密接な関係があり、どちらかのみが発生するということはなく、流体が必ず持つ性質となります。
なお、図(b)では、衝撃波の後ろの圧力は平ら(一定)になっていますが、このような衝撃波を発生させるためには衝撃波管と呼ばれる実験装置が必要でり、日常ではまず起こりません。おや、冒頭で述べた「雷鳴や打ち上げ花火で衝撃波を体験できる」という話と矛盾しているように思うかもしれません。
実は日常現象で実際に体感できるのは「爆風」と呼ばれる空気中の波であり、この中に「衝撃波」があるのです。
爆風とは?
一般的な爆風(爆風波とも呼びます)を図で表したものが図3(c)となります。爆風の先頭に圧力の非連続面がありますよね。これが衝撃波です。
ただし、衝撃波の後ろの圧力は一定ではなく、次第に大気圧まで下がっていきます。これは「膨張波」や「希薄波」と呼ばれるものでなだらかに圧力が減少していくものになります。
爆風は「衝撃波」と「膨張波」の組み合わせになります。爆風の先頭は衝撃波ですので、爆風の先頭は音速を超音速で伝わっていきます。
図3 爆風
爆風(図3(c))と音波(図2(a))を比べてみましょう。
音波は爆風ととは違ってなだらかで圧力振動が小さいですよね。例えば「ポーン」という時報のような音色を想像してください。一方、爆風の先頭にある衝撃波は音波に比べて圧力が急激に高いですね。爆風が耳に到達した場合、音色なんてレベルではなく鼓膜を突き刺すような爆音となります。威力によっては鼓膜を損傷する危険もあります。
また、圧力上昇だけでなく、空気分子そのものもわずかですが高速で移動します。これが衝撃音とともに風圧として体全体に作用することになります。
一般的な爆風について説明しましたが、冒頭で説明した雷鳴や尺玉花火で発生する爆風がすべて図3(c)のような形になるわけではありません。
図3(c)の爆風の波形は樹木や建物がまったくない平らな地面で爆薬が無風状態で理想的に爆発した場合のものです。実際には障害物や地形、風などの気象条件などの影響により図3(d)のように少し崩れたような波形になると考えられます。
まとめ
衝撃波と音波の違い、衝撃波の体験方法について説明してきましたが、いかがだったでしょうか?
この記事では雷鳴と打ち上げ花火に話題を絞りましたが、実際には衝撃波現象はまだまだたくさんあります。高速衝突事故や爆発事故など痛ましい場面で耳にすることもありますが、産業・工学・医療などでは衝撃波を積極的に活用している側面もあります。
衝撃波は音速を超える速さで急激な圧力上昇が伝播するため、周囲に多大な影響を与えます。衝撃波を制御・予防・活用するためには衝撃波の威力や伝播状況を予め予測する必要があり、数値シミュレーションは有効な手段の1つです。衝撃波についてさらにご興味がございましたら以下のサイト・コラムをご参照ください。
【関連サイト】
爆風のシミュレーション事例についてはこちら
衝撃波工学の歴史と発展、テクニカルレポート「衝撃波の科学」についてはこちら
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