マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは? 材料開発でカーボンニュートラルを目指す
現在、世界的な地球環境問題への取り組みが進められています。日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする“カーボンニュートラル”を目指すことを宣言しました。
画像引用元:『カーボンニュートラルとは-脱炭素ポータル』
材料開発の分野においても、カーボンニュートラルの実現という社会的ニーズに対応するために、環境負荷の低減や持続可能性を考慮した革新的な技術が求められています。そこで注目されているのが、“マテリアルズ・インフォマティクス(以下、MI)”です。MIとはAIをはじめとする機械学習と情報科学(インフォマティクス)を用いて、材料開発の効率化を目指す技術・手法のことで、カーボンニュートラルの観点においても重要とされています。
この記事では、MIの概要や国内外の取り組み状況、活用にあたっての課題と解決策について解説します。
出典:環境省『カーボンニュートラルとは-脱炭素ポータル』/内閣府『マテリアル革新力強化戦略』
伊藤忠テクノソリューションズが提供する材料開発・設計ソリューションに関しましては下記をご参照ください。
目次[非表示]
- 1.MIとは
- 2.MIへの取り組み
- 3.MIの導入における課題と解決策
- 3.1.データ量の不足と質の確保
- 3.2.技術者の不足
- 4.伊藤忠テクノソリューションズのMI&DXシステムによるメタネーションコンサルティングサービス
- 5.まとめ
MIとは
MIとは、AIをはじめとする機械学習と情報科学(インフォマティクス)を用いて、材料開発の効率化を目指す技術・手法のことです。
▼MIの概念とシステム図
実験データ管理・活用
測定装置からの測定データを自動的にデータベース化、BIツールを通して分析の一連の動作を実現します。
MIシステム
さまざまなアプリケーションを連携させ、新規材料設計を迅速かつ効果的に行うためのプラットフォームです。実験データの管理および有効活用だけでなく、最先端のナノソリューションと連携することで、試験レスで材料設計を行うことも可能です。
実験最適化
勘と経験による試験錯誤、総当たりで行ってきた材料開発の条件を最適化することで効率的になります。目的にあった解析方法を提供することが可能です。
従来の材料開発では、技術者の経験や勘に頼ることが多く、新素材が完成するまでに膨大な時間を要していました。MIを用いれば、原子・分子に関わる実験や論文などの膨大なデータを解析して、材料の特性を予測・評価することが可能です。
研修者による理論計算や実証実験を繰り返し行うことなく、製品に求める機能・性能を実現するための元素の組み合わせ・構造・組成などを導き出せます。これにより、開発期間・コストの大幅な短縮につなげられます。
なお、政府はカーボンニュートラルを目指すために、新素材の効率的な開発を重要視しており、その一環としてMIを推進しています。
材料開発の分野でカーボンニュートラルに貢献するには、エネルギー変換を可能とする材料や、環境負荷を低減する材料(再生材・バイオマス材・生分解性材など)
のリユース・リサイクルを前提とした材料設計などが求められます。
なお、カーボンニュートラルについては、こちらの記事で詳しく解説しています。併せてご確認ください。
出典:経済産業省『新・素材産業ビジョン 中間整理』/内閣府『マテリアル革新力強化戦略』
MIへの取り組み
環境問題への対応や持続可能性を考えるうえで重要視されているMIは、すでに各国で取り組みが行われています。ここでは、日本と世界での取り組みを紹介します。
日本での取り組み
画像引用元:内閣府『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)概要』
日本では、2013年に政府主導の元で提言された“戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)”により、MIへの国家的な取り組みが始まりました。
現在では、材料開発の期間・コストの大幅な短縮を目指すために、欲しい性能から材料・プロセスを考える“逆問題”に対応したMIシステムの開発や、産業競争力のある革新的材料の開発・設計、ひいては事業化に向けた取り組みが進められています。
▼逆問題に対応したMIによる材料開発のプロセス
画像引用元:内閣府『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)2021 パンフレット』
また、カーボンニュートラルを実現するためのMIへの投資を行い、日本の科学技術イノベーション力の強化を目指しています。これを受けて、多くの国内大手企業がMI導入に積極的な姿勢を見せています。
出典:経済産業省『マテリアル革新力強化のための政府戦略に向けて (戦略準備会合取りまとめ)』/製造産業局『新・素材産業ビジョン 中間整理 ~グローバル市場で勝ち続ける素材産業に向けて~』/内閣府『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)2021パンフレット』
世界での取り組み
MIの取り組みは、世界各国で進められています。
アメリカでは、2011年に材料開発の革新的なプロジェクト“Materials Genome Initiative(MGI)”が立ち上げられ、MIをはじめとした新素材開発の効率化のために多額の資金が投入されました。さらに中国や韓国、EU内でも、MIに関するプロジェクトが立ち上げられています。
出典:内閣府『第7回ナノテクノロジー・材料基盤技術分科会 資料2-2 情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)概要』
MIの導入における課題と解決策
材料開発における革新的な技術として登場したMIは、カーボンニュートラルへの貢献をはじめ、イノベーションの創出や産業競争力の強化などにつながると期待されています。しかし、導入にあたっては課題もあります。
データ量の不足と質の確保
MIによる材料開発を行うには、実証実験に関する膨大かつ良質なデータや論文・特許情報などが必要になります。
過去の実験データが保存されていない、または紙で保存されておりデジタル化されていない場合には、データ量が不足して精度の高い分析を行えない可能性があります。
▼解決策
分析の精度を高めるには、実証実験に関するデータの量・質の不足を補う必要があります。自社でのデータ蓄積だけでなく、政府・企業から提供されているオープンプラットフォームやデータベースを使用して、データの創出・拡充を行うことが求められます。
出典:内閣府『マテリアル革新力強化戦略』/経済産業省『マテリアル革新力強化のための政府戦略に向けて (戦略準備会合取りまとめ)』
技術者の不足
MIを用いた材料開発では、製品に求める性能・機能をベースに、膨大なデータを正確に分析して、材料の特性を予測・評価する必要があります。
これには知識と技術を持った人材が必要不可欠ですが、社内にデータを扱える技術者が不足しているケースも少なくありません。
▼解決策
技術者が不足している課題を解決する方法には、以下が挙げられます。
- 技術専門人材の能力向上を図るための教育・研修を実施する
- 技術専門人材の恒常的な雇用を行う
- 外部から技術支援の提供を受ける
出典:経済産業省『マテリアル革新力強化のための政府戦略に向けて (戦略準備会合取りまとめ)』
伊藤忠テクノソリューションズのMI&DXシステムによるメタネーションコンサルティングサービス
CTCでは、新規材料開発を行ううえで、「短時間・低コストで行いたい」「AIやシミュレーション技術などを活用したい」「乱雑になった実験データを整頓したい」など、さまざまな要望に沿ったシステムを提供しています。CTC-MI&DXシステムは、さまざまなアプリケーションが連携した仕組みになっているため、お客様それぞれに合ったシステム提供が可能です。
MI&DXを適用した例として「メタネーション」が挙げられます。水素(H2)と二酸化炭素(CO2)から、天然ガスの主成分であるメタン(CH4)を合成する「メタネーション」は、既存設備を活用しつつも、化石燃料である天然ガスの使用量を削減します。このことから、新たなCO2の生成を抑制することが期待できる技術として注目されています。
CTCは、MI&DXによる「メタネーション」のシミュレーションのコンサルティングサービスを提供しています。
合成メタンを効率的に生成するには、CO2をより多く回収する吸着材の開発や、生成効率を向上させる触 媒設計が重要です。CTCは、CO2の吸着性や合成メタン生成量の最大化に向けた材料組成のMI&DXシミュレーションサービスを提供します。
伊藤忠テクノソリューションズが提供する材料開発・設計ソリューションに関しましては下記をご参照ください。
まとめ
この記事では、MIについて以下の内容を解説しました。
- MIの基礎知識
- 国内外におけるMIへの取り組み
- MIの導入における課題と解決策
カーボンニュートラルの実現に向けて、エネルギー変換や環境負荷の低減につながる革新的な材料のニーズが高まっています。そうしたなか、MIはこれまでの材料研究のプロセスを根本から変える新たな技術として注目されています。
AIやビッグデータを活用した解析によって、材料の特性を予測・評価することで、材料開発における時間・コストの大幅な短縮につながると期待されます。
伊藤忠テクノソリューションズでは、お客さまに適したMIシステムの構築・選定をサポートしております。材料設計のデータ生成や管理、機械学習によるモデル作成など、ニーズに合わせてスケーラブルなシステムを構成することが可能です。
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