catch-img

ベイズ推定とは?生産実績を元に生産システムの未知のパラメータを推定する方法

製造ラインの生産計画を立案したり生産性をシミュレーションで分析したりするときには、計算に使用する入力データを準備する必要があります。入力データには受注データのように日々変わる情報(データ)と、設備性能のような固定的な情報(パラメータ)の2種類があります。

パラメータ値は設備のカタログ値を用いることが多いのですが、実際のパラメータ値はカタログ値と異なる場合があります。例えば設備の定格消費電力は最大負荷に近い条件での消費電力であり、実際の消費電力よりも大きい値になっています。

そのためカタログ値を使って計算すると、その結果は現実と乖離したものになります。正しいパラメータ値を手に入れるためにはセンサーや人手を使って計測することになりますが、手間やコストが掛かります。また計測が困難なパラメータも存在します。

本記事ではパラメータを既存の情報からシミュレーションとベイズ理論を活用して推定する技術をご紹介します。


目次[非表示]

  1. 1.ベイズ推定とは
  2. 2.シミュレーションとは
  3. 3.シミュレーションとベイズ推定による未知のパラメータ推定
  4. 4.パラメータ推定の実行例
  5. 5.伊藤忠テクノソリューションズのIntelligentTwinサービス


ベイズ推定とは

ベイズ推定とは、ベイズ確率の考え方に基づき、観測事象(観測された事実)から、推定したい事柄(観測事象を引き起こした原因事象)を、確率的な意味で推論することです。ベイズ推定は次のような様々な推定に利用されています。

  • 暗号の解読
  • 木星と土星の質量推定
  • スペースシャトルの事故確率
  • 保険料の計算
  • タバコと肺がんとの因果関係
  • スパムメールのフィルタ
  • 投資の判断
  • 選挙の当選予測

ベイズ推定の源流であるベイズの定理は、1740年代にトーマス・ベイズが発見したと言われています。ベイズの定理は、ある事象の事前知識に基づいて、結果事象から原因となる事象の確率を求めるものです。

例えば、2つの箱A、Bがあり、箱Aには白3と黒1、箱Bの箱には白1と黒2の玉が入っているとします。今ここで白玉を取り出したとき、どちらの箱から取り出したかをベイズの定理で推定することができます。この例では(結果事象y=白玉)を(原因事象θ=箱A)から取り出した確率は9/13、(原因事象θ=箱B)から取り出した確率は4/13となります。

原因事象θを連続値のパラメータに拡張すると、ベイズの定理は次式で表すことができます。

ベイズの定理より事後分布P(θ|y)が得られれば、次式によりパラメータの平均値を算出することができます。これがベイズ推定の基本的な考え方になります。

問題点は、事前確率P(y|θ)が既知のものに限定されること、そして事前確率が分かっていても積分計算が複雑であることです。

この解決策としてサンプリングに基づく事前確率の近似計算手法(ABC法)が考案され、MCMC法やカーネルABC法などの手法に発展しています。サンプリングには、数式やシミュレーションモデルが使用されます。


シミュレーションとは

シミュレーションとは、何らかのシステムの挙動を、それとほぼ同じ法則に支配される他のシステムや計算によって模擬することです。

例えば生産シミュレーションでは、コンピュータ上に製造ラインを模擬したシミュレーションモデルを構築し、投入計画データや設備パラメータを設定して実行すると、製造数量・スループット・リードタイム・稼働率などの結果を得ることができます。


シミュレーションとベイズ推定による未知のパラメータ推定

ベイズ推定の発展形であるカーネルABC法は、未知のパラメータをランダムサンプリングしてシミュレーションを実行し、その結果と観測値から各ケースの重みを計算してパラメータの加重合計値を求めることで、推定を可能にします。

カーネルABC法は他の手法に比べて、サンプリング数を抑えることができたり、問題に依存した処理が不要であったり、観測値が多次元であってもよい性能が得られたりする利点があります。


パラメータ推定の実行例

例として、フローショップ型ラインの各工程の消費電力を推定してみましょう。


生産ライン全体の消費電力量は実測済みであるものとします。


また、ランダムサンプリングする消費電力の範囲は、各工程の定格電力の約1/2から定格電力までの範囲に真の値があるものとして定義します。


与えられた消費電力の範囲に基づいてランダムサンプリングを行い、生産シミュレーションを実行します。


シミュレーションで得られた消費電力量y、ランダムサンプリングしたパラメータ値θ、および消費電力量の実測値y*を元に、カーネルABC法で各工程の消費電力を推定します。


伊藤忠テクノソリューションズのIntelligentTwinサービス

ここでは、シミュレーションとベイズ理論を活用した方法を用いて、生産実績データから各工程の未知のパラメータを推定することができることをご紹介しました。本記事で紹介した技術は、生産システムにとどまらずシミュレーションが可能な対象であれば様々なパラメータの推定が可能です。カタログ値で設定しているパラメータを調整してシミュレーション精度を向上することも可能になります。

未知のパラメータの推定やシミュレーション精度の向上に課題がある方は是非ご相談ください。

伊藤忠テクノソリューションズでは、『IntelligentTwinサービス』を展開しています。製造業を中心に多くの企業がデータの蓄積・活用先としてデジタルツインに積極的に取組んでいますが、「使用するデータが不足している」「取得できないデータがある」「分析技術が足りない」などの課題が挙げられます。

IntelligentTwinサービスでは、これらの課題に対して、AI、シミュレーション、数理最適化を組み合わせて、最適な価値を提供します。また、生産性向上や新規設備投資計画、人員配置最適化などの課題に対しては、適切な手法の選定から運用フェーズでのモデル精度維持まで、さまざまな形でご支援いたします。


【関連記事】

  生産プロセスの最適化で生産性向上! 改善を図る3つの方法 製造業において重要な経営課題の一つに、生産性の向上が挙げられます。近年、市場ニーズの多様化や技術革新による製品の高度化、製品ライフサイクルの短縮化などによって、製造業を取り巻く環境が変化してきました。それに伴い、生産プロセスも複雑になりつつあります。 そうしたなか、以下のような課題が生まれやすくなってます。 「多品種少量生産での在庫管理や原価管理が難しい」 「仕様変更による組み換え作業でタイムロスが発生する」 「設備故障や不良品発生による機会損失を招いている」 このような課題を抱えている製造現場では、生産性の向上に向けて、生産プロセスの最適化に取り組もうと検討されている方もいるのではないでしょうか。 この記事では、製造現場での生産プロセスを最適化するメリットと改善方法について解説します。 Trans Simulation


  数理最適化による電力消費量ピーク平準化 電力需要家に求められる従来の省エネ対策は量・効率の省エネ対策が主でしたが、2013年の省エネ法改正では電力需給バランスを意識した時間の概念を含むエネルギー対策が求められるようになり、電気の需給の状況に照らし電気の需要の平準化を推進する必要があると認められる時間帯(電気需要平準化時間帯)が設定されました。 電気需要平準化時間帯は、具体的には全国一律で7月~9月(夏季)および12月~3月(冬期)の8~22時(土日祝日を含む)と定義されています。地域の需給状況や労働環境などに留意しつつ、事業者は以下のような具体的な電気需要平準化措置を講じる必要があります。 Trans Simulation


“事例一覧は下記をクリック‼”


人気記事ランキング


キーワードで探す



 

関連記事

伊藤忠テクノソリューションズの科学・工学系情報サイト

 

ページトップへ戻る