ミーゼス応力と主応力の違いとは?結果の評価にはどう使う?
”応力”は構造解析において重要な物理量です。FEMなどの構造解析結果の評価では、応力状態をよく確認する必要があります。しかしながら、一言で”応力”といっても、ミーゼス応力、主応力、公称応力、真応力…など、様々な種類の応力があります。皆さんはこれらの応力の違いを理解し、使い分けられていますか?
本記事では、構造物の設計や評価で重要な役割を果たす、ミーゼス応力と主応力に注目して、これらの違いと使い分けについて解説します。
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主応力の定義
部材に力が作用するとき、せん断応力成分がすべてゼロになる座標系が必ず存在します。このような座標系での垂直応力成分を主応力といいます。値の大きい方から順に、最大主応力、中間主応力、最小主応力と定義されます。主応力は、応力の方向を示すベクトル量であることが大きな特徴です。主応力は力の方向に関する情報も持つので、材料に掛かる力が引張りか圧縮かを区別して表示することができます。通常、プラスが引張りで、マイナスが圧縮で表されます。
ミーゼス応力の定義
ミーゼス応力は多軸応力状態を1軸の引張応力に置き換えるものです。構造物に荷重を与えた場合、基本的には、複数の方向に力が発生し、応力状態は複雑になります。そのような複雑な応力状態もミーゼス応力を使うことで、力の方向に関係なく、応力を1つの値(スカラー値)で示すことができます。そのため、単軸の引張試験の応力と比較する場合には、このミーゼス応力が有効です。例えば、ミーゼス応力は材料の降伏判定に使用されることがあります。単軸の引張試験から得た材料の降伏応力を基準とし、ミーゼス応力の値によって降伏判定を行います。ただし、ベクトル量である主応力とは違い、ミーゼス応力はスカラー値であるため、応力の向きを判断することはできません。
ミーゼス応力は、先ほど紹介した主応力を用いて次のように表すことができます。
ミーゼス応力と主応力の比較
ミーゼス応力と主応力の違いを確認するために、実際に解析結果を見てみましょう。両端が固定された梁の中央部に下向き荷重をかける解析をしてみます。
下向きに荷重をかけると梁はこのように変形します。
これをミーゼス応力と主応力それぞれのコンターで表示した図を見てみましょう。
ミーゼス応力のコンター図
主応力のコンター図
2つの画像は同じ現象をそれぞれミーゼス応力コンターと主応力コンターで表示したものですが、まったく異なる応力場となっています。例えば、上面中央部分の要素でそれぞれの値を比べてみると、ミーゼス応力は2.3×10^3 MPa、主応力は-5.7×10 MPaというように、大きく異なっています。
前述の通り、ミーゼス応力は力の“大きさ”を表すスカラー値ですので、どこにどのくらいの応力が発生しているか、一目瞭然です。ただし、引張り・圧縮の区別はありませんので、必ず正の値となります。
一方で、主応力コンター図ではミーゼス応力コンター図に無かった、負の値が確認できます。今回の解析条件において、梁が変形すると下面は引張り状態、上面は圧縮状態になるはずです。主応力コンター図を見てみると下面が正の値、上面が負の値になっています。主応力では引張りが正、圧縮が負で表現されますので、このコンター図では引張りと圧縮の応力状態を区別して表現されていることがわかります。つまり、主応力では力の”方向”も確認することができるのです。
ミーゼス応力と主応力の使い分け
先ほど梁の例で確認したように、ミーゼス応力は力の大きさを表すため、分布図から一目で応力の大小を確認することができます。ただし、ミーゼス応力だけでは引張りと圧縮の状態はわかりません。そこでベクトル量である主応力を使います。これにより、材料にかかる応力が引張りなのか圧縮なのかを区別することができます。このように、構造解析での一般的な使い分けとしては、まずミーゼス応力の分布図から最弱部を見つけ、その部分の応力状態を主応力から判断するという方法がとられています。
また、評価対象の材料によってミーゼス応力と主応力を使い分けることもできます。例えば、金属のように、引張りと圧縮で挙動が大きく変わらないものに対してはミーゼス応力で評価し、土やコンクリートのように、引張りと圧縮で挙動が大きく異なるものに対しては主応力で評価する、というような使い分けがなされます。
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まとめ
この記事では、ミーゼス応力、主応力の定義と構造解析における使い分けについて解説しました。それぞれの応力はユーザー自身が目的に応じて使い分けることが重要です。しっかりと理解し、適切な評価を行いましょう。
【参考記事】