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地震に負けない地下構造物の真実!知っておきたい解析手法を解説

地下構造物は上下水道や杭をはじめとする、地表の下に建設された構造物です。これには、都市のインフラや生活の利便性を向上させるために利用される様々な施設が含まれています。耐震設計が不十分だと、地盤の液状化や断層変位が生じ、様々な被害が発生する可能性があります。

この記事では、近年多くの研究が行われている、地震に対する安全性を確保するための解析について解説します。


目次[非表示]

  1. 1.地下構造物の耐震設計とは
  2. 2.地下構造物の耐震解析手法
    1. 2.1. 応答変位法
      1. 2.1.1.地盤変位
      2. 2.1.2.周面せん断力
      3. 2.1.3.慣性力
    2. 2.2.FEM応答変位法
    3. 2.3.修正FEM応答変位法
    4. 2.4.修正FEM応答変位法で設定する等価節点力の算出方法
    5. 2.5.応答震度法
    6. 2.6.応答震度法で設定する等価節点力の算出方法
    7. 2.7.動的解析
    8. 2.8.動的解析を実施する際のモデル領域の範囲
  3. 3.伊藤忠テクノソリューションズの耐震動的解析サービスのご紹介
  4. 4.おわりに


地下構造物の耐震設計とは

地上構造物では、構造物の基礎から地震動が入力され、慣性力によって構造物自身の振動によって変形が生じます。これに対して地下構造物では、慣性力による構造物自身の振動の影響は比較的少なく、周辺の地盤変形が構造物を変形させる外力として大きく影響します。このため地下構造物を設計する際には、周辺地盤の変形が構造物に与える影響を十分に考慮することが必要となってきます。


地下構造物の耐震解析手法

ここでは、各種、耐震解析手法について具体的な内容を紹介します。地下構造物を対象とした耐震解析手法は、大きく大別して、「静的解析手法」と「動的解析手法」に分けられます。「静的解析手法」にもいくつかの手法がありますが、いずれの手法も、地震時に作用している動的な外力に対して、最大応答を再現するような静的な荷重に置き換えて模擬するという手法になります。

これに対して「動的解析手法」では、構造物の振動特性(固有振動)と地震動の振動特性により作用外力を定めるスペクトル解析と、時々刻々の地震外力を直接入力して、時刻歴の応答を直接的に評価する手法があります。


地下構造物の耐震解析手法


 応答変位法

応答変位法は、地下構造物を対象として開発された耐震設計法で、地盤ばねを介して地盤の相対変位を構造物に外力とし作用させる静的解析手法です。一般的には、構造物を骨組みモデル、周辺地盤を地盤ばねでモデル化し、荷重として、地盤変位、周面せん断力、慣性力を考慮します

地盤変位

地盤変位は、地盤ばねの端部に強制変位荷重で載荷します。与える強制変位量は、別途、一次元の地盤解析を実施し、構造部の上床版レベルと下床版レベルの相対変位が最大となる時刻の地盤変位分布を与えることが一般的です。

周面せん断力

地盤変位と同様に地盤バネ端部に集中荷重として作用させます。周面せん断力も、一次元地盤応答解析において,変位分布を求めた時刻における地盤要素のせん断応力を元に設定することが一般的です。

慣性力

構造物全体に慣性力として作用させます。慣性力についても地盤変位を求めた時刻の加速度応答値より設定することが一般的です。

  • 解析モデル:骨組みモデル+地盤ばねモデル
  • 解析手法:静的解析
  • 外力:地盤変位、周面せん断力、ボックスの慣性力


応答変位法の概要


FEM応答変位法

FEM応答変位法は、周辺地盤を有限要素法(FEM解析)の平面ひずみ要素でモデル化し、FEM側面境界位置に地盤変位を強制変位として作用させる解析手法です。以前には、FEMモデルの作成は、難易度が高いと思われていましたが、計算機の向上、解析コードの整備により、2次元FEM解析は比較的容易な手法となってきています。FEM応答変位法で作用させる地盤変位は、応答変位法同様に、別途、一次元地盤応答解析を実施し、構造部の上床版レベルと下床版レベルの相対変位が最大となる時刻の地盤変位分布を与えることが一般的です。

注意事項としては、モデル領域幅により応答結果が変わってしまうため、適切なモデル幅を把握することが重要となります。

  • 解析モデル:骨組みモデル+地盤FEMモデル
  • 解析手法:静的解析
  • 外力:地盤変位


FEM応答変位法の概要


修正FEM応答変位法

修正FEM応答変位法も2次元FEM解析を利用した解析手法となります。作用外力は、地盤変位ではなく、地盤内のせん断応力に相当する力を、FEMモデルの各節点に等価節点力として与えます。地盤内のせん断応力は、今までの解析手法と同様に、一次元地盤応答解析を実施し、構造部の上床版レベルと下床版レベルの相対変位が最大となる時刻のせん断応力を元にすることが一般的です。

修正FEM応答変位法は、FEM応答変位法に比べるとモデル幅の影響を受けにくいという利点がありますが、等価節点力の算定に手間がかかります。

  • 解析モデル:骨組みモデル+地盤FEMモデル
  • 解析手法:静的解析
  • 外力:等価節点力(一次元地盤のせん断応力分布より算出)

修正FEM応答変位法の概念図  


修正FEM応答変位法で設定する等価節点力の算出方法

修正FEM応答変位法では、自由地盤の応答解析で得られる深度ごとのせん断応力に、FEMモデルの地盤要素を構成する節点の支配面積を乗じたものを等価節点力とします。 

  • 節点1の等価節点力

X方向:要素1のせん断応力×τ1支配面積Ax1
Y方向:要素1のせん断応力τ1×支配面積Ax1

  • 節点2の等価節点力

X方向:(要素1のせん断応力τ1 ― 要素2のせん断応力τ2)×支配面積Ax1
Y方向:要素1のせん断応力τ1×支配面積Ay1+要素2のせん断応力τ2×支配面積Ay2

修正FEM応答変位法の等価節点力


応答震度法

応答震度法も2次元FEM解析を利用した解析手法となります。作用外力は、地盤変位ではなく、地盤内の加速度分布を元に、慣性力に相当する等価節点力をFEMモデルの各節点に与えます。地盤内の加速度分布は、今までの解析手法と同様に、一次元地盤応答解析を実施し、構造部の上床版レベルと下床版レベルの相対変位が最大となる時刻のせん断応力を元にすることが一般的です。

応答震度法も荷重の算定に手間がかかりますが、修正FEM応答解析に比べると、作用荷重が直感的にイメージしやすいという特徴があります。

  • 解析モデル:骨組みモデル+地盤FEMモデル
  • 解析手法 :静的解析
  • 外力:等価節点力(一次元地盤の加速度分布より算出)


応答震度法の概念図  


応答震度法で設定する等価節点力の算出方法

応答震度法では、自由地盤の応答解析で得られる深度ごとの応答加速度にそれぞれ節点質量を乗じたものを等価節点力とします。 

  • 節点1の等価節点力

X方向:(支配面積A11×単位奥行×要素1の単位体積重量γ1)×加速度A1 

  • 節点2の等価節点力

X方向:(支配面積A12×単位奥行×要素1の単位体積重量γ1)×加速度A1
       +(支配面積A21×単位奥行×要素2の単位体積重量γ2)×加速度A2

図.応答震度法の等価節点力 


動的解析

前述した各種静的解析手法では、地震時の最大応答を模擬するうえで、一次元地盤解析の最大応答時刻の応答を用いているため、成層の地盤構成であることが前提となります。このため複雑な地層や、複雑な構造物形状の場合には適用することが難しいケースがあります。動的解析では、このような複雑な相互作用が生じる問題であっても、形状に応じたFEMモデルを用いることで、応答を評価することができます。

動的解析による検討では、応答スペクトル解析と、時刻歴応答解析があります。応答スペクトル解析では、構造物の振動特性と、地震波の振動成分との関係を元にして最大応答を計算する手法です。時刻歴応答解析は、地震動そのものを入力荷重として、時々刻々の応答をステップにおって計算する手法です。特に非線形逐次応答解析は、構造物の非線形特性を考慮した解析を行うことができます。このため巨大地震に対する検討では、非線形逐次非線形解析による検討が主流となっています。

  • 解析モデル:骨組みモデル+地盤FEMモデル
  • 解析手法:動的解析
  • 外力 :基盤地震動(加速度波形) 


動的解析の概念図


動的解析を実施する際のモデル領域の範囲

FEMで地盤をモデル化する場合、本来、無限に連続する地盤に対して、有限の領域を切り出してモデル化を行います。構造物で生じた振動エネルギーは、本来は、モデル外の地盤に伝播していくことになりますが、有限のFEMモデルでは、モデルの外側に振動を伝える対象がないため、解析上、境界位置で振動成分が全反射して、モデル内にエネルギーが戻ってくることになります。FEM解析モデルのモデル領域は、対象とする構造物に対して、境界位置での反射波が影響しないように、広い範囲は設定しておくことが必要となります。

動的解析時に設定する境界条件は、この反射波の影響を排除するために設定するもので、設定する境界条件によって必要となるモデル領域幅が変わってきます。モデル化領域について一般的な目安は以下の程度と言われています。ただし、構造物形状によっても変わるため、適切なモデル幅となっているかについては応答結果を見て確認することが重要となります。

FEMモデルの解析領域


動的解析時のFEMモデル領域範囲の目安 


伊藤忠テクノソリューションズの耐震動的解析サービスのご紹介

伊藤忠テクノソリューションズでは、2次元/3次元耐震動的解析 ソフトウェアの提供とサポート、受託解析サービスを提供しています。

自社開発プロダクト「SoilPlus」は、本記事で紹介した解析手法は全て実施でき、“静的・浸透・耐震問題を考慮した総合的な設計”が可能なソフトウェアとして、様々な場面で利用されています。


おわりに

この記事では、地下構造物の耐震解析について、以下の内容を解説しました。

  • 地下構造物の耐震解析とは
  • 地下構造物の耐震解析手法

地震による被害を最小限に抑えるために非常に重要です。地下構造物は地震の影響を受けやすく、その安全性を確保するためには、地震時の挙動を正確に予測し、適切な設計を行う必要があります。シミュレーションを活用することで、地下構造物をはじめ土木・建設における安全性の検討などを効率的に行っていきましょう。


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