シミュレータとスケジューラの違いと効果的な連携 製造領域での活用方法を比較!
生産現場では生産計画を立てるためにスケジューラが利用されますが、スケジューラでは複雑な工程やリソースの取り合いが発生する工程では効果的な計画を立案することが困難です。本記事ではスケジューラとシミュレータの機能的特性と、シミュレータのスケジューラ的利用のメリットについて解説し、さらにスケジューラとシミュレータの使い分けや効果的な連携についてもご紹介いたします。
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スケジューラの概要
製造現場では生産物、生産量、納期、各設備や作業員などのリソースといった情報をもとに、どの設備でいつ何を作るのかという生産計画が立てられます。生産計画立の案にはExcelなどの表計算型のソフトウェアが使われることもありますが、生産計画作成に機能特化した生産スケジューラを利用することで、計画立案を効率化・省力化することが可能です。
スケジューラの機能の中で特筆すべきことはスケジューリング用のアルゴリズムを搭載していることです。多彩な割付ロジックを有しており、フォワード割り付け(前倒し)、バックワード割り付け(JIT)、再割り付けなど工程の特徴や必要な計画に応じてスケジューリング方針を使い分けることが可能です。また、アウトプットの観点ではガントチャートや作業負荷率など計画立案結果を視覚的に分かりやすく表示する機能を持っていることがスケジューラ利用のメリットとして挙げられます。
一方、製造工程には現場ごと複雑なルールや条件が存在することが多いですが、スケジューラにそれらを制約条件として反映させることは難しいです。利用するスケジューラソフトウェアにそのような機能がないものもありますし、そもそもスケジューラでは反映できないような条件もあります。そういった複雑な対象に対して「シミュレータ」であれば生産計画を立てることができる場合があります。
シミュレータとスケジューラの比較概要
シミュレータの機能
シミュレータとは、現実の生産ラインを模したものを仮想空間に作成し、それを利用して工程の改造や改善を行うものです。段取り替えや故障、状況ごとの作業ルールや、複雑な分岐ルールを表現でき、様々な条件下でマシン・作業員の稼働率、生産量、バッファでの滞留量などを再現できます。そのため、実際の現場の複雑さを保ったまま定量的・客観的な検証が可能となります。さらにアニメーションにより見える化や直観的な意思疎通も可能です。
スケジューラと異なる点は、シミュレータの方が生産ラインのありようを表現する能力が高い点です。論理を表現できるため、状況や生産品ごとの作業ルール、処理ルール、分岐ルールといった複雑なルールを表現できます。これによりリソースの取り合いが起こった時にどのように処理をするかを決めることができます。リソースの取り合いはスケジューラでは表現が難しく、できたとしても計算負荷が高くなります(リソースの取り合いとは、故障が同時に発生したときのに設備復旧のための作業員をどの設備から作業させるかといった作業員リソースの取り合いや、ラインが合流する際の合流点の設備リソースの取り合い、複数の搬送要求が発生した時のAGVリソースの取り合いなどを言います)。
さらに、シミュレータでは確率要素を扱うことができます。確率要素を扱えることで時々おこる故障や不良品の発生、幅がある作業時間の設定などを表現することが可能になり、これによってよりロバストな分析結果を得ることが可能になります。
シミュレータとスケジューラの機能特徴
シミュレータのスケジューラ的利用
生産スケジューラでは表現が難しいリソースの取り合いや確率要素はあるシステムの場合、シミュレータによる生産計画立案を考える余地があります。
シミュレータには生産計画を立案する機能はありませんが、複数の生産計画をそれぞれシミュレーションし、最も効率的な(作業時間が最短、作業負荷が平準化されているなど)計画を選択することが可能です。シミュレータを数万、数十万と回す必要がありますが、効果的な探索アルゴリズムを利用することでシミュレーション実施回数を数千、数百に削減することも可能です。投入順番やロットサイズの可能な組み合わせなど計画立案で考慮したいパラメータが定義できれば、それぞれのシミュレーションを回すことで、最適な生産計画を導けます。
シミュレーション複数回実行による生産計画作成のイメージ図
CTCの事例としては、食料品メーカーの生産ラインを対象に、シミュレータを活用した生産計画を立案した開発経験があります。設備や送液パイプ、作業員といったリソースの取り合いがあるため市販のスケジューラでは計画立案ができないラインに対して、1週間内のライン投入計画および作業計画を立案し、人手による計画より10%の作業時間削減を実現しました。また、設備を増設した時の計画、レイアウト情報を変更した時の計画など、シミュレータの特徴である工程フローの変更した時の定量評価を最大限活用しながら様々な計画を検討を実施しました。
シミュレータとスケジューラの使い分けと連携
シミュレータとスケジューラにはそれぞれの利用目的がありますので、状況に応じた使い分けが必要です。シミュレータによるスケジューリングもスケジューラを代替するものではなく、ある限られた状況で効果を発揮するものです。計画立案者は対象の工程の特徴や業務要件、予算などをもとに、適切なアプローチを考える必要があります。
最後に、シミュレータとスケジューラの連携についてご紹介します。シミュレータとスケジューラは異なる機能・目的を持つため、それぞれの特徴を活かして連携させることで高度な生産活動改善が可能となります。
連携1
スケジューラによって作成した生産計画をもとにシミュレータで生産能力や実現可能性を検証する。
効果:詳細な生産ルールや確率要素を考慮したシミュレータで検証することで、机上論でない実現可能なスケジュールが作成可能。
連携2
生産計画をスケジューラで作成し、リソース設計やフロー設計をシミュレータで行う。
効果:日々変えにくいもの(レイアウトやフロー)と日々変えられるもの(生産計画)の両方の効率化を検討できる。
連携3
シミュレータで能力改善した生産ラインでスケジューラで作成した生産計画をもとに生産活動を行い、試算上の納期達成度や生産能力を詳細に分析する。
効果:現実に存在しないラインに対して納期達成度合いや生産能力など重要指標を事前検証できる。
おわりに
本記事では、スケジューラとシミュレータのそれぞれの特性を示し、互いに補完しあうツールであることをご紹介しました。製造の効率化を図る上では両ツールとも極めて有効ですので、状況に応じて適切に使い分けていくことが必要になります。すでにそれらのツールをお使いのユーザー様向けに、より高度な使い方として互いの強みを掛け合わせる連携例もご紹介しております。個別の状況に応じたご相談も承りますので、ぜひ下記IntelligentTwinサービスへお問合せください。
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