CAE導入の効果は?費用対効果とROIについて事例を交えて紹介します
現代産業において、CAE(Computer Aided Engineering)[1]の導入は避けて通れない重要なステップとなっています。CAEは、製品開発プロセスをシミュレーション主導で進めることで、コスト削減や人件費削減に大きく寄与します。しかしながら、ものづくりの前工程と言われるフロントローディングを担う企画・構想、初期設計部署では、これまで「CAEを使ったことがない」などの声も多く、企業全体で見ればまだまだCAEが浸透しているとは言えない状況です。
CAEの活用経験がない人にとっては、CAEが課題解決に繋がるというイメージを持たれにくく、導入初期費用やランニングコストが高いといった認識もまだまだあると言われています。本記事では、CAEの導入によるメリット(費用対効果)およびROI(投資利益率)について具体的な事例を交えて紹介します。
[1] CAE(Computer Aided Engineering)
CAEは、コンピュータを用いて製品の設計や解析を行う技術です。これにより、物理的な試作を行う前に製品の性能や耐久性をシミュレーションすることが可能となります。特に製品開発の効率化と試作や実験の回数を減らすことで、コスト削減に大きな効果をもたらします。
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シミュレーション主導の開発プロセス
CAEを導入することで、開発プロセスはシミュレーション主導となります。これにより、設計段階での問題点を早期に発見し、修正することが可能です。例えば、製品の強度や耐久性をシミュレーションすることで、実際の試作を行う前に最適な設計を見つけることができます。
コスト削減の効果
CAEの導入により、物理的な試作の回数が減少し、材料費や試作費用の削減が期待できます。また、シミュレーションを活用することで、設計の最適化が進み、製品の品質向上にも寄与します。これにより、製品のリコールや修理費用の削減にもつながります。
人件費削減の効果
CAEの導入により、設計や解析にかかる時間が短縮されるため、エンジニアの労働時間を削減することができます。これにより、人件費の削減が実現します。また、シミュレーションを活用することで、エンジニアのスキル向上にもつながり、効率的な開発が可能となります。
伊藤忠テクノソリューションズが提供するCAEアドバイザリサービス
伊藤忠テクノソリューションズが提供するCAEアドバイザリサービスは、設計や製造プロセスを改善するための高度な解析技術を利用し、製品の品質向上や生産性の向上など、お客様のビジネスパフォーマンスを高めるためのサービスです。
伊藤忠テクノソリューションズのエキスパートたちは豊富な業界知識と経験を活かし、最適な解決策を提供し、お客様のビジネス成長を支援します。CAE活用効率最適化、高度なシミュレーション技術、最適なソリューションの組合せなどの課題に対してお困りの方はお問い合わせください。
投資利益率(ROI)の測定
CAEの導入によるROIを計算するためには、以下の要素を考慮する必要があります。
- 初期導入費用:CAEソフトウェアの購入費用や導入にかかるコスト
- 運用費用:CAEソフトウェアのライセンス費用やメンテナンス費用
- コスト削減:物理的な試作費用や材料費の削減効果
- 人件費削減:エンジニアの労働時間削減による人件費の削減効果
これらの要素を総合的に評価することで、CAEの導入によるROIを算出することができます。
具体的な事例
CAEの導入によるメリット(費用対効果)
ACME WIND POWER Inc.[2]のケーススタディを確認します。同社はシミュレーション主導のメリットに焦点を当て、CAEソフトウェア、サービス、HPCインフラストラクチャ、エンジニア向けのシミュレーショントレーニングに300,474ドル(4,500万円)を投資しました。初年度に2,777,845ドル(4憶1,600万円)の利益を実現し、2,477,371ドル(3億7,000万円)の純利益を達成しました。(※1ドル150円で換算)また、アイデア・イノベーションのシナリオ分析が40.4%増加し、反復設計の代替案分析が60.7%増加しました。測定されたすべての指標の影響を以下の表1, 2に示します。
[2] ACME WIND POWER Inc.
ACME WIND POWER, Inc.は、風力タービン、風力発電設備および設置サービスを含む設計、開発、製造および持続可能なエネルギー技術の販売において30年以上の経験を持つエネルギーサービス会社。
表1 測定指標への影響
表2 投資収益率(ROI)と内部収益率(IRR)の分析
注: ROIとIRRは1年目では同じです。IRR: Internal Rate of Returnの略。 IRRでは、事業計画から得られるフリー・キャッシュフロー(FCF)の現在価値から初期投資額を差引いた金額。
投資回収期間が短いのは、効果を加速させるためにシミュレーショントレーニングが必要であると経営陣の理解があったためです。最初の1か月間、すべてのエンジニアを対象としたシミュレーショントレーニングが実施されました。
このプログラムが開始されたとき、エンジニアの約19%がシミュレーションを使用し、73%がCADと従来のツールのみを使用し、8%が両方をある程度使用していました。 このプログラムの終了までに、エンジニアリングチームとアナリストチームを合わせた82%がシミュレーションを使用しました。 エンジニアが新しい設計の代替案を視覚化し始めたため、新しいシミュレーションツールへの導入も速やかに進めることができました。
このケーススタディは、設計者CAEソフトウェアを通じて実現可能なシミュレーション主導の設計検討の利点を定量化し、従来のエンジニアリング設計手法やワークフローと比較した場合、設計段階でシミュレーションを実施する利点が大きいことを明確に示しました。シミュレーション主導の設計を使用すると、エンジニアは様々な設計を検討し、コンセプトおよび設計の初期段階で製品のパフォーマンスを理解することができます。
ACME WIND POWER Inc.の場合、設計者CAEソフトウェアの活用により、アナリスト、設計エンジニア、マーケティングマネージャー、プロジェクトマネージャーが、高度なシミュレーションおよびシミュレーションソフトウェアの使用に必要なスキル、解析手法についての深い理解を大幅に軽減させるガイド付きワークフローを使用しました。製品の設計に関してリアルタイムで繰り返し共同作業できるようになり、エンジニアリングの生産性を向上させました。
これにより、設計参加者全員が協力し、反復し、従来のワークフローや設計ツールを使用すると劇的に時間がかかり、大幅にコストがかかる革新的なアイデアを共有できるようになりました。設計者CAEを使用することで、同社はコストを削減し、品質とパフォーマンスを向上させました。また、チームのコラボレーションも向上し、エンジニアリングリソースをより有効に活用し、市場投入までの時間を短縮しました。
結論
CAE導入によるシミュレーション主導のワークフローは、企業にとって多くの財務的な利点をもたらし、設計と開発の効率を向上させるだけでなく、製品の品質と信頼性を向上させることができます。これにより、企業は市場投入までの時間を短縮し、競争力を高めることができます。
- シミュレーション主導により投資収益率をより簡単に定量化することができます。
- 設計と開発の時間とコストを削減します。
- 製品のプロトタイプとエンジニアリング分析のコストを削減します。
- 品質と信頼性を向上させることで、保証請求を削減します。
- エンジニアはコンセプトおよび設計の初期段階で製品のパフォーマンスを理解することができます。
- エンジニアリングチーム間のコラボレーションを改善し、データ管理コストを削減します。
図1 シミュレーション主導の設計探索における投資収益率の定量化
出典: “Quantifying the Return on Investment in Simulation Lead Design Exploration”, Mediafly, 2020
まとめ
CAEの導入は、製品開発プロセスをシミュレーション主導で進めることが可能となり、コスト削減や人件費削減に大きく寄与します。ROIを計算することで、導入の効果を具体的に評価することが可能です。今後もCAEの活用が進むことで、さらなる効率化とコスト削減が期待されます。
CAE導入のメリットとして、
- リードタイムの短縮: 開発スピードの向上と市場投入の迅速化
- 人件費削減: エンジニアの労働時間削減と業務効率化
- コスト削減: 試作コストや材料コストの削減
- 品質向上: 最適化設計による製品の軽量化と安全性の確保
などが挙げられます。
伊藤忠テクノソリューションズでは、設計者CAEからのスタートアップをはじめとして、CAE全般を活用した導入・運用支援、コンサルティングや受託解析、CAEエンジニア育成トレーニングなど、包括的なサービスをご用意していますので、お気軽にお問い合わせください。
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