
自然災害とシミュレーション。防災や減災に向けた取り組みをご紹介します。
近年、異常気象による自然災害が頻発し、従来の経験則に基づく予測や対策では対応が難しくなっています。こうした状況に対し、シミュレーション技術が災害予測や防災・減災において重要な役割を果たすようになってきました。気象データを活用した予測や、構造解析・マルチフィジックス解析によるインフラ設計支援など、シミュレーションは人命を守るための有力な手段として進化を続けています。
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自然災害をシミュレーションで再現&予測する試み
近年、異常気象が日常的なものになってしまった感すらあります。言わずと知れた気候変動問題の一端として現れているもので、自然災害として我々の身に降りかかってくるようになっていました。直接身の危険を感じることはなくとも、物流に影響が出て注文品が届かなかったり、遠出の際に予期せぬ通行止めに出くわしたりといったことは、経験があるのではないでしょうか。
極端な大雨などの自然災害は過去に起きた事例をもとに今後の規模や様相を予測し、被害の予防や軽減といったものを考えてきたのが歴史的な流れと思われます。しかし、現在起きている自然災害は徐々に規模や頻度が増してきており[1]、過去の経験から単純に予測したり対策したりといったことが難しくなってきました。端的に言えば、従来以上にいつ起こるのか・どのくらいのことが起きるのか予測しづらくなってきたことになります。
現在はその予測にシミュレーションが活用されるようになってきています[2]。そこでは、「3カ月予報データ」をシミュレーションの境界条件として与え、予め大量のシミュレーションを実施しておき、極端現象が発生した際に迅速な情報発信をしようという試みがなされています。また、そのなかで、実際に起きた2024年の大雨において地球温暖化の影響で48時間積算雨量が20%以上増加しているらしいことが突き止められ、発表もされています。
[1]気象庁 気候変動監視レポートhttp://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/index.html
[2]文部科学省 令和6年夏の記録的な高温や大雨に地球温暖化が寄与-イベント・アトリビューションによる速報-https://www.mext.go.jp/content/20240902-mxt_kankyou-000037882_1.pdf
このように、自然災害の発生について予測し迅速に情報発信をする、それによって人命を守るという分野では、すでに様々なシミュレーション技術が貢献するようになってきました。今回は、もう少し具体的に防災・減災といった角度でシミュレーション技術が貢献できることをご紹介したいと思います。
シミュレーションで防災・減災に取り組む
短期的な災害予測は、どちらかといえば避難に有効なものです。一方、被害を防ぐ・減じる(防災・減災)のためには、インフラを整えることが有効な手段となります。その構想・設計の段階で活躍しているのが構造解析と呼ばれるシミュレーション技術です。構造解析では、多種多様な建造物や製品、時には人体までもモデル化し、様々な条件下でどのように変形したり応力が発生したり、といったことを計算します。ものづくりの現場では、構造解析はすでに無くてはならない存在になっています。
ところが、防災に関わるようなシミュレーションは一筋縄ではいきません。実際に起きる現象が複雑なため、構造解析だけで解こうとすると、与えるべき条件が複雑になりすぎる可能性があるためです。また、落石防護ネットのように構造解析だけであっても非常に複雑な接触状況を計算しなければならないものもあります。防災に関わるシミュレーションはそういったものをまるっと扱えることが好ましいわけです。
いま書いた「実際に起きる現象が複雑」という部分については、マルチフィジックス解析(連成解析)で取り組むことになります。水や土砂、あるいは流木や岩といったものを模擬する流体解析や粒子法と連携して構造解析を行うことが代表例と言えるでしょう。マルチフィジックス解析は、異なるソフト同士をつないで計算(連成)することが多いですが、Ansys社のLS-DYNAであれば、LS-DYNAの中だけで多くのマルチフィジックス解析が完結します。異なるソフトで連成して計算する場合、データのやり取りに気を使うことが多いのですが、LS-DYNAはその点で非常にすっきりとしています。ほとんど気にする必要がありません。また、マルチフィジックス解析を行うにあたり追加ライセンスも不要です。(=One Code Strategy 参考[3])
[3]CTC 「LS-DYNAの現在地」 https://www.engineering-eye.com/rpt/column/2022/1228_structural.html
「複雑な接触状況を計算」という部分も、LS-DYNAの得意分野です。防護ネットのワイヤーを一本一本モデル化し、接触させるような計算も可能です。粒子法の一種であるDEM(個別要素法)とワイヤーの接触も図に示すように扱えますので、土砂が堆積するような場合の複雑な荷重条件を再現することも可能です。先ほどのURL[3]で紹介したものと同じ図ですが、こちらの図をご確認いただければと思います。なお、CTCはAnsys社の代理店として、LS-DYNAの販売・保守・サポートを行っています。
防災予算の拡充
日本政府も自然災害の激甚化、極端現象化といったことに手をこまねいているわけではなく、防災庁の設置や防災・減災分野への国家予算の配分など、本格的な対策に乗り出しています。
そのような動きがあるため、関連する業界に多額の資本が投入されていくことになると予想されますが、従前よりも潤沢になるとはいっても限りある予算です。その原資は貴重な税金ですから、効率的な活用が求められます。実機によるトライアンドエラーに基づく改良だけでは要求を満たせない時代に入っていますので(実性能面、コスト面、市場投入までの時間、など)、シミュレーションをフル活用して、それらの要求に応える必要があります。
試作前の検討をシミュレーション、コスト削減と有効活用
シミュレーションは色々な使い方がありますが、最も一般的なものは「実製品や試作品での試験を模擬すること」ではないでしょうか。現在の設計が要求性能を満たすかどうか、設計変更の影響はどうなるか、といったことを確認します。落石防護ネットの試験などがイメージしやすいですが、既存の試験内容やより基礎的な試験結果を再現できている段階までモデル化技術を確立しておけば、設計変更時の振る舞いの変化をシミュレーションで確認することができるようになります。
将来的には、そのシミュレーションのデータを教師データとして学習したAI(サロゲートモデル)を構築し、設計変更を入力して数分程度でシミュレーションの結果を予測する、、といったことが可能になります。(通常は1ケースのシミュレーションで数時間~1日程度かかるものが多数ある)AIを活用するにしても、基になる学習用のデータは高精度であることが求められますので、従来の解析技術が不要になるわけではありません。
シミュレーションソフトの年間コストは利用する規模によってまちまちですが、それなりの規模で使い倒すとしてもせいぜい2~3人の年間の人件費と似たようなオーダー(※1)です。LS-DYNAの場合は規模が大きくなるほど急激に単価が下がりますので、その先も青天井でコストが上がってしまうということはありません。(ただし、100人規模で常時利用するような規模ではそれなりの金額になります)決して安いとは言えないですが、エンジニアのアウトプットが格段に改善されるのであれば、トータルのコストとしてはメリットが圧倒的に勝ると言えるでしょう。
※1:具体的な価格はCTCの営業にお問い合わせください。LS-DYNAの基本的な価格体系は、「同時に何コアの計算を行えるか?」によります。ネットワークライセンスですが、スタンドアロン環境でも利用できます。また、年間レンタルなのか、買取&保守なのかでも金額が異なります。
シミュレーションの難しさとCTCのCAEアドバイザリサービス(1stステップトライアルサービス)
LS-DYNAのようなシミュレーションソフトはハイエンドに分類されます。残念なことに、少々敷居が高い点は否めません。それなりに高価なソフトを導入したのに十分に活用できていない、、という例が散見されることも事実です。CTCでも各種トレーニングをご提供してきましたが、汎用ソフトゆえの現場への浸透の難しさが横たわり、効果的な活用が阻害されてきた側面があります。
そこで、CTCでは2024年度から、お客様の実課題について、モデリングや使い方のレクチャー込みで「最初の一歩」を強力にサポートする1stステップトライアルサービスを開始しました。形状は簡易なものに落とし込み、基本的なシミュレーションの設定や勘所を学んでいただける内容になります。既存のトレーニング内容だけでなく、個々の課題にあわせて作成した資料とその資料に基づくレクチャーを行いますので、シミュレーションの内製化をしたい場合には最適なサービスです。
費用は提案内容によって変化しますので、事前に内容のすり合わせを行いお見積りとなります。
おわりに
シミュレーション技術は、自然災害の予測や防災・減災対策において重要な役割を果たしています。特にLS-DYNAのような高機能な解析ツールは、複雑な現象の再現や設計段階での検討に有効で、コスト削減やAI活用にもつながります。CTCの支援サービスを活用することで、導入初期のハードルも下げられ、現場での活用がより現実的になります。今後も技術の進化とともに、災害に強い社会の実現が期待されます。
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