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第1回:変われる業界、変われない業界 ─ 建設業界の構造的課題を見つめ直す

「建設業界は変わらない」「デジタル化が進まない」「PoC止まりで終わる」──こうした声を、業界内外で耳にすることは少なくありません。

一方で、放送業界や製造業界は、デジタル技術を活用しながら、業務の効率化・標準化・自動化を着実に進めてきました。では、なぜ建設業界だけが取り残されているように見えるのでしょうか?

本シリーズでは、放送業界・製造業界との比較を通じて、建設業界が抱える構造的な課題を明らかにし、その解決策を探っていきます。第1回では、まず「業界構造の違い」に焦点を当て、建設業界の変わりにくさの本質に迫ります。

目次[非表示]

  1. 1.建設業界・放送業界・製造業界 - 3つの業界構造を比較する
  2. 2.建設業における構造的課題
    1. 2.1.構造的課題①:一品生産と属人性
    2. 2.2.構造的課題②:データの分断と非蓄積
    3. 2.3.構造的課題③:業務プロセスの非標準化
    4. 2.4.構造的課題④:DXの“現場展開”の壁
  3. 3.なぜ放送業界・製造業界は変われたのか?
  4. 4.おわりに:第2回へ向けて
  5. 5.伊藤忠テクノソリューションズの取組み

建設業界・放送業界・製造業界 - 3つの業界構造を比較する

まずは、3つの業界の構造を比較してみましょう。

観点

放送業界

製造業界

建設業界

プロジェクト性質

番組単位     (反復性あり)

製品単位(大量生産)

案件単位(個別対応)

データの扱い

アーカイブ・再利用 前提

設計~生産まで   一貫管理

プロジェクト毎に分断

業務プロセス

放送フォーマット  に準拠

生産管理・工程管理 が標準化

現場ごとに     属人化・非標準

技術導入の傾向

編集・配信の    自動化が進展

IoTAI・ロボット導入が進む

実証止まり、     現場展開に課題

データ活用

映像資産の     2次利用・分析

生産データの    最適化・予測

データ蓄積が困難、  活用進まず

放送業界は番組単位で反復性があり、製造業界は製品単位で大量生産が可能です。一方、建設業界は案件単位で個別対応が基本となり、業務の標準化が難しい構造です。

また、放送業界ではアーカイブと再利用が前提となっており、製造業界では設計から生産まで一貫したデータ管理が行われています。建設業界ではプロジェクトごとにデータが分断され、蓄積や活用が困難です。

このように、建設業界は「一品生産」「現場依存」「非標準化」「データ分断」という構造的な特徴を持っています。特に地方の建設会社では、横のつながりが少なく、成功事例が共有されにくい傾向があります。

建設業における構造的課題

構造的課題①:一品生産と属人性

建設業は、プロジェクトごとに設計条件・施工条件・関係者が異なる「一品生産」が基本です。そのため、業務が属人化しやすく、ノウハウの継承や業務の標準化が進みにくい構造になっています。

たとえば、同じような橋梁工事であっても、発注者が違えば仕様も違い、施工会社が違えば管理方法も異なります。この現場ごとの最適化が、全体最適化や技術の横展開を阻む壁になっているのです。

構造的課題②:データの分断と非蓄積

建設業界では、設計・施工・維持管理の各フェーズで使われるシステムやフォーマットが異なり、データが分断されています。さらに、現場での記録が紙やPDFで残されることも多く、データとして蓄積・活用されないという問題があります。

これは、放送業界における「映像アーカイブ」や、製造業における「生産データの一元管理」とは対照的です。建設業界では、プロジェクトが終わると情報も消えるという使い捨て型の情報管理が常態化しているのです。

構造的課題③:業務プロセスの非標準化

製造業では、設計から生産、品質管理までが標準化されており、業務の再現性が高くなっています。一方、建設業界では、同じような工事でも業務フローがバラバラです。

これは、発注者の仕様、地域の慣習、施工会社の文化などが影響しており、業務のテンプレート化が難しいという課題につながっています。その結果、技術導入の際にも「この現場では使えない」「この会社のやり方には合わない」といった理由で、PoC止まりになるケースが多発しています。

構造的課題④:DXの“現場展開”の壁

多くの企業がDXに取り組んでいますが、現場への展開が進まないケースが多く見られます。その背景には、以下のような要因があります

  • 現場のITリテラシーの差
  • 導入後の運用設計不足
  • 現場の負担増への懸念
  • 「失敗できない」文化

つまり、技術的には優れていても、現場で使われなければ意味がないという現実が、建設業界のDXを難しくしているのです。

なぜ放送業界・製造業界は変われたのか?

放送業界や製造業界は、こうした課題を乗り越えて変革を遂げることができました。

その答えは、「業界全体での共通認識」と「標準化の推進」にあります。

ー 
放送業界では、放送フォーマットやメタデータの標準化が進み、アーカイブや再利用が可能になりました。
ー 
製造業では、設計・生産・品質管理のプロセスが標準化され、IoTAIによる自動化が進みました。

つまり、「業界全体での共通ルール」があるからこそ、技術が浸透し、変革が実現したのです。

おわりに:第2回へ向けて

建設業界が抱える構造的な課題は、単なる技術の問題ではなく、業界構造そのものに根ざした問題です。この課題を乗り越えるには、他業界の成功事例に学びながら、業界全体での共通認識と標準化の推進が不可欠です。

次回(第2回)では、放送業界の「アーカイブと再利用の思想」に焦点を当て、建設業界における情報資産の扱い方を見直すヒントを探っていきます。

伊藤忠テクノソリューションズの取組み

伊藤忠テクノソリューションズでは、今回の記事に関連した「建設業向けのDXソリューション」を提供しております。

ワークフローの標準化、技術資料DB化、BIM/CIM推進などで課題をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

 

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