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Reduced Order Model(ROM)が切り拓く次世代のCAEとデジタルツインの活用

はじめに

汎用解析ソフトウェアLS-DYNAは、マルチフィジックスシミュレーションとして、様々な業界の課題に適用し、非常に幅広い分野に活用が拡げられてきました。

本記事では、LS-DYNAにおける医療分野やライフサイエンス分野でのシミュレーション適用事例とデジタルツインの活用について紹介し、CAEとデジタルツインの連携が様々な業界でのスタンダードな技術要素になる可能性について解説します。

本解析結果(LS-DYNA)画像は、ANSYS社よりご提供頂いたものです。

Ansys®、及びその他すべてのANSYS, Inc.の製品名は、ANSYS, Inc.またはその子会社の米国およびその他の国における商標または登録商標です。

目次[非表示]

  1. 1.はじめに
  2. 2.医療×デジタルツインについて
    1. 2.1.医療分野で加速するデジタルツイン
    2. 2.2.医療デジタルツインが直面する課題
    3. 2.3.Reduced Order Model(ROM)の活用
  3. 3.EVAR(腹部大動脈瘤治療)におけるROM活用事例
    1. 3.1.活用事例の紹介
    2. 3.2.EVARにおける本質的な課題
    3. 3.3.ROMによるアプローチ
  4. 4.医療分野におけるROM×デジタルツインの期待効果
    1. 4.1.今後の展望:医療デジタルツインはどこへ向かうのか
    2. 4.2.NVIDIA Omniverseの活用実績
  5. 5.他産業への応用:ROMが切り拓く横断的価値
    1. 5.1.CAEは「速さ」が新たな価値になる時代へ
  6. 6.おわりに
  7. 7.伊藤忠テクノソリューションズが提供するCAEアドバイザリサービス

医療×デジタルツインについて

医療分野で加速するデジタルツイン

近年、製造業を中心に普及してきたデジタルツインの概念が、医療分野にも本格的に拡がりつつあります。

CTやMRIなどの医用画像、患者固有の解剖形状、さらには生体力学シミュレーションを組み合わせることで、「患者一人ひとりの仮想コピー(デジタルツイン)」を構築し、治療計画や術中判断を高度化する取り組みが進んでいます。

医療デジタルツインが直面する課題

医療デジタルツインの実用化には大きな壁があります。それが大規模数値シミュレーションにかかる計算時間です。

医療分野では、有限要素法(FEM)などの高忠実度シミュレーションがすでに多く用いられています。血管、骨、臓器といった複雑な構造を正確に再現できる一方で、以下のような制約があります。

  • 計算に数十分〜数時間以上を要する
  • 入力条件を変更するたびに再計算が必要
  • 術中や対話的な利用が困難

特に手術支援や術中ナビゲーションでは、「数分以内、できれば数秒で結果が得られる」ことが求められ、従来の大規模計算だけでは対応が困難でした。

Reduced Order Model(ROM)の活用

この課題を解決する鍵がReduced Order Model(縮約モデル:ROM)です。サロゲートモデルとも呼ばれます。

ROMは、あらかじめ多数の高忠実度シミュレーション結果を学習し、その挙動を少数のモード(基底)と応答曲面で表現する技術です。一度ROMを構築すれば、FEM同等の物理的妥当性を維持しつつ、計算時間を「数秒」レベルまで短縮することが可能になります。

つまりROMは、大規模計算の高速化を実現するための中核技術であり、医療デジタルツインを“現場で使える技術”へと引き上げる役割を担います。

EVAR(腹部大動脈瘤治療)におけるROM活用事例

活用事例の紹介

ROMを用いた医療デジタルツインの具体例として、EVAR(腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療)が紹介されています。

出典:Reduced Order Model for enhanced EVAR Planning and navigation guidance

EVARにおける本質的な課題

EVARでは、ガイドワイヤー挿入によって血管形状が変形します。

現状、臨床医はイメージングフュージョン技術、DSA、および透視法等を用いて手術を行いますが、術前CT画像と術中の大動脈形状との間には依然として不一致が存在します。高忠実度有限要素シミュレーションは大動脈壁の変形を予測できますが、時間がかかるため臨床スケジュールには適合しません。

  • 術前CTは術中に更新されない
  • 実際の血管形状と事前計画にズレが生じる
  • 造影剤やX線照射の増加につながる

といった問題があります。

ROMによるアプローチ

この研究では下記条件でROMを構築しています。

  • LS-DYNAによる高忠実度FEM解析
  • 血管形状・材料特性・挿入角度など7つのパラメータ
  • 300ケースの大規模計算結果

その結果、

  • ROM誤差は平均0.3mm程度(医用画像の分解能と同等)
  • 予測結果はほぼリアルタイム(数秒)で取得可能

となり、術前計画・術中ナビゲーションへの実用的な適用可能性が示されました。これはまさに、医療デジタルツイン×Reduced Order Model(ROM)が臨床価値を生み出した好例といえます。

医療分野におけるROM×デジタルツインの期待効果

このアプローチはEVARに限らず、以下のような医療分野への展開が期待されます。

  • 個別化医療(Personalized Medicine): 患者ごとの解剖・物性を反映した治療計画
  • 術中意思決定支援: 条件変更に即応できるリアルタイム予測
  • 医師の経験依存の低減: シミュレーションに基づく客観的判断

ROMは、医療デジタルツインを「研究用途」から「臨床現場で使えるツール」へと進化させる要素技術と言えるでしょう。

今後の展望:医療デジタルツインはどこへ向かうのか

今後は、以下の方向での進化が見込まれます。

  • 非線形・複雑材料モデルへの対応
  • AI・機械学習との融合(Hybrid ROM)
  • 術中データとのリアルタイム連成
  • NVIDIA Omniverseなど可視化基盤との統合

特にNVIDIA OmniverseのようにGPUを活用した可視化・シミュレーション基盤とROMを組み合わせることで、直感的かつ対話的な医療デジタルツイン環境の実現が期待されています。

これにより、CAEやAIに関する専門的な知識を必ずしも持たない医療従事者であっても、デジタルツイン上で条件を変えながら直感的に状況を把握し、施術計画や意思決定を支援するツールとして活用できるようになると考えられます。

NVIDIA Omniverseの活用実績

すでにNVIDIA Omniverseでは、CAE以外でも医療分野の適用について多くの実証実験および活用実績があります。

活用領域

内容

デジタルツイン

病院環境の仮想空間再現、設備配置の最適化

ロボティクス

フィジカルAI搭載ロボットによる搬送・患者対応・環境監視

可視化・解析

LS-DYNAなどの解析結果を3Dで可視化し、医療機器設計や人体モデル解析に応用

トレーニング

仮想空間での医療従事者向けトレーニングや手術シミュレーション

NVIDIAの最新技術(Omniverse、Isaac Sim、Blackwell GPUなど)を活用し、医療用ロボットの開発が行われています。

  • 四足歩行ロボット(NVIDIA Jetson AGX Orin搭載)
  • ヒューマノイドロボット(Isaac GR00Tベース)
  • 自動搬送ロボット(AMR)

これらのロボットは、病院内での物資搬送、患者対応、環境モニタリング(ガス検知・熱検知など)に活用され、Omniverseによる仮想病院環境でのトレーニングや検証が行われています。

他産業への応用:ROMが切り拓く横断的価値

ROM技術は、他産業にも強い親和性を持ちます。

  • 製造業: 成形・衝突・構造解析の高速化
  • エネルギー: プラント・配管のデジタルツイン
  • 建設・防災: 地盤・構造物挙動の即時予測
  • モビリティ: 車両・人体連成シミュレーション
  • 医療・ライフサイエンス: リアルタイム診断、医療従事者の教育及びトレーニングの高度化

いずれも共通する課題は、「大規模計算を、現場で使える速度に落とし込むこと」であり、ROMはその解決策として横断的に活用可能です。

CAEは「速さ」が新たな価値になる時代へ

有限要素法(FEM)などを中心としたCAEは、これまで「高精度=高コスト・長時間」というトレードオフの上に成り立ってきました。

特にLS‑DYNAのような高忠実度CAEは、非線形、大変形、接触、動的現象といった複雑な現象を高精度に再現できる一方で、計算規模が巨大化しやすいという特性を持っています。

しかしながら、近年CAEに求められる役割は大きく変化しています。「1回正確に解く」だけでなく、リアルタイム性と柔軟性が強く求められるようになっています。

  • 条件を変えながら試行錯誤を繰り返す
  • 設計・計画・運用の意思決定に即座に反映する
  • デジタルツインとして現場で活用する

高忠実度CAEの結果をROMとして縮約することで、大規模計算の高速化を図りつつ、デジタルツイン上でリアルタイムに挙動を可視化・評価することが可能になります。

その前提として、LS DYNAのような高忠実度シミュレーションは不可欠であり、同時に、これらの次世代要求に応える鍵となるのが、CAE・ROM(サロゲート)・デジタルツインを組み合わせたアプローチです。

おわりに

Reduced Order Model(ROM)は、単なる計算時間短縮のための手法ではありません。大規模CAEによって得られた膨大な計算結果や物理的知見を凝縮し、デジタルツインを実用段階へと押し上げる中核技術です。

デジタルツインをリアルタイムに活用する取り組みは、すでに現実のものとなりつつあります。今後はさまざまな産業においても、デジタルツインがデファクトスタンダードとして活用されていくことが期待されます。

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