
なぜ最適化AIは生まれたのか? 意思決定を“計算する”
はじめに
業務の現場では、毎日たくさんの意思決定が行われています。生産計画、配車、在庫管理、人員配置、材料の配分、価格設定。どれも一見すると個別の業務に見えますが、共通しているのは「限られた条件の中で、できるだけ良い選択をしたい」という点です。
これまで、こうした判断の多くはExcelなどの表計算ツールや、担当者の経験・勘によって支えられてきました。もちろん、人の経験は今でも重要です。現場を知る人だからこそ分かる事情や、数字だけでは表現しにくい制約もあります。しかし、ビジネス環境の複雑化により条件が増え、迅速な判断も求められるため、人手だけで最適解を導くのは難しくなっています。
そこで注目されるのが、最適化AI(数理最適化)の考え方です。最適化AIは、業務上の判断を「決定変数」「制約条件」「目的関数」として整理し、ソルバーと呼ばれる計算エンジンを使って、条件を満たす最適解を探索する技術です。
本記事では、なぜ最適化AIが必要とされるようになったのか、導入方法、業務適用時の課題を順番に整理します。
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なぜ最適化AIが生まれたのか?
最適化AIが生まれた背景を理解するには、まず「すべての候補を試す」という素朴な方法の限界を見るのが分かりやすいです。
問題設定
- 例えば、複数のお客様を訪問する営業担当者がいるとします。
- 各お客様の場所と、お客様間の移動時間は分かっています。
- このとき、「すべての訪問順について移動時間を計算し、その中から移動時間が最も短い順番を選ぶ」という方法を取ることはできるでしょうか?
- この問題設定は、巡回セールスパーソン問題と呼ばれています。
課題の判明
- 仮に、1つの訪問経路の移動時間を計算するのに0.1秒かかるとします。
- 訪問先が4か所であれば、訪問順の組み合わせは4! = 24通りです。つまり、24通りをすべて計算しても、必要な時間は約2.4秒です。この規模であれば、全探索でも十分に対応できます。
- ところが、訪問先が10か所になると状況は一気に変わります。訪問順の組み合わせは10!で約363万通りになります。すべての候補を調べるには約36万秒、つまり約100時間以上かかります。
- 実務では、今日の訪問計画を立てるために数日待つことはできません。ここで、単純な全探索は現実的ではないことが分かります。
- さらに、現実の業務では「移動時間が最短であればよい」という単純な条件だけでは済みません。訪問可能な時間帯、担当者の勤務時間、優先顧客、車両の台数、荷物の積載量、休憩時間、渋滞の影響など、さまざまな制約が加わり、問題が複雑になっていきます。

このような「候補が爆発的に増える問題」を扱うために、1940年代以降、数理最適化の研究が大きく発展しました。線形計画法やシンプレックス法に代表される考え方は、限られた資源をどのように配分すれば最も良い結果になるかを、数学的に扱うための基盤となりました。
最適化AIは、こうした数理最適化の考え方を、現代のデータ、コンピュータ、業務システムと組み合わせて、実務の意思決定に適用するものだと捉えることができます。
つまり、最適化AIは「AI」という言葉から想像されるような、何かをあいまいに推測する技術ではありません。
むしろ、与えられた条件を厳密に整理し、許される範囲の中で最も良い選択を計算する技術です。人が悩んで決めていた複雑な判断を、数式とアルゴリズムによって再現可能な形に変えること。これが、最適化AIが生まれた大きな理由です。
最適化AIの導入方法
最適化AIを導入するには、以下の3ステップで進めます。
- 現実の業務課題を明確にする「なるべく早く回りたい」「この時間までに終わらせたい」「この条件は必ず守りたい」などの要望をリストアップします。
- 業務課題を「計算できる形」に定式化する「なるべく早く回りたい」「この時間までに終わらせたい」「この条件は必ず守りたい」といった要望を、そのままコンピュータに渡しても、コンピュータは判断できません。そこで、課題を「決定変数」「制約条件」「目的関数」という3つの要素に分解し、数式として定式化します。
- 最適適解を求める定式化された数式を適切なアルゴリズムで計算し、最適解を求めます。
最適化AIの変数
次に、モデル化の中心となる「決定変数」「制約条件」「目的関数」の考え方を説明します。
決定変数:最適化したい変数、つまり求めたい解
まず決定変数です。これは、最適化AIが最終的に決める対象を表します。たとえば、誰をどのシフトに入れるのか、どの商品をどれだけ作るのか、どの車両がどの順番で配送先を回るのか、といった「選択肢そのもの」が決定変数になります。
巡回セールスパーソン問題では、変数x_(pa,pb)を使って、訪問先paの後にpbを訪問するかどうかを表します。

Pは訪問予定先の集合を表します。x_(pa,pb)の値が1ならば「paの後にpbへ訪問する」、値が0ならば「その順番では訪問しない」ことを表すものとします。つまり、訪問順という業務上の判断を、0か1の変数として表現しています。
制約条件:必ず守らなければならないルール
次に制約条件です。制約条件は、現実の業務で「これは守らないといけない」と決まっているルールを数式にしたものです。
配送であれば、各訪問先は必ず1回訪問する、車両の積載量を超えない、勤務時間を超えない、といった条件が該当します。制約条件があるからこそ、最適化AIは単に都合の良い解ではなく、現場で実行できる解を探すことができます。
巡回セールスパーソン問題では、「ある訪問先の次に訪問できる場所は1か所だけ」という条件を、以下の数式で表します。

この数式は、「訪問先paの次に訪問する候補すべてについての選択状況(0または1)を合計し、その合計が1になるようにすることで、次の訪問先がちょうど1か所だけ選ばれることを表しています。これは、「営業担当者は同時に複数の場所へ移動できない」という、ごく当たり前の現実世界のルールを数式化したものです。最適化では、このような当たり前に見える条件を明示することがとても重要になります。
※実際の巡回セールスパーソン問題では、各地点に1回だけ到着する制約や、経路が複数の巡回路に分かれないための制約も必要です。ここでは説明を簡単にするため、一部の制約のみを示しています。
目的関数:最適化したい内容、つまり最大化または最小化したい評価指標
最後に目的関数です。目的関数は、「何をもって良い解とするのか」を定義するものです。移動時間を短くしたいのか、コストを下げたいのか、利益を増やしたいのか、納期遅れを減らしたいのか。業務によって目指すべきゴールは変わります。目的関数をどう置くかによって、同じ制約条件でも得られる解は変わるため、ここには業務上の価値判断が強く反映されます。
巡回セールスパーソン問題では、目的関数を次のように表現します。

この式は、移動時間の総和を最小化することを表しています。Cpa,pbは、paからpbに移動するのにかかる時間です。
つまり、「どの順番で回るか」という決定変数と、「各地点間の移動時間」というデータを掛け合わせ、全体として最も移動時間が短くなる訪問順を探しているのです。
最適化AIの性能を決める要素
このように、最適化AIでは、まず現実の課題を決定変数・制約条件・目的関数に分解し、数式モデルとして定式化します。その後、その数式の形に合ったアルゴリズムやソルバーを使って、制約を満たす候補の中から最適解を求めます。
問題の性質に応じて、線形計画法、整数計画法、制約プログラミングなどのモデル化手法と、分枝限定法、カット生成、ヒューリスティクスなどの解法が使われます。
ここで大切なのは、最適化AIの性能は、ソルバーの計算能力だけで決まるわけではないという点です。どの変数を決定対象にするのか、どのルールを制約として入れるのか、何を目的として最小化・最大化するのか。この整理が曖昧だと、いくら高性能なソルバーを使っても、現場で使える解にはなりません。
また、意思決定を表す0-1変数を必要以上に多く用いると、探索すべき候補数が急激に増加し、計算時間が膨大になることで、業務上求められる時間内に解が得られなくなる場合があります。
そのため、同じ業務要件であっても、どのように定式化するかによって計算効率は大きく変わります。効率的に解ける数式モデルを設計するには、最適化に関する専門的な知識や経験が必要になることがあります。
つまり、最適化AIの本質は、単に計算することではなく、業務の意思決定構造を正しく、かつ効率的にモデル化することにあります。

最適化AIを業務で使うときの課題
ここまで見てきたように、最適化AIは業務上の意思決定を数式として扱い、制約条件を満たす範囲で最も良い解を探す技術です。
ただし、実際の業務に適用しようとすると、机上のモデルでは見えにくい課題が出てきます。特に重要なのが、「解なし」への対応と、「大規模モデル」への対応です。
課題1:解なし
まず大きな課題になるのが「解なし」です。
最適化AIは、あらかじめ定義された制約条件をすべて満たす解を探します。そのため、条件同士が矛盾していたり、現実には達成できないほど厳しい条件が設定されていたりすると、どれだけ計算しても条件を満たす解が存在しません。
この状態が「解なし」、つまり実行可能な解が見つからない状態です。たとえば、全員が同じ時間帯に休みたいという希望を出しているにもかかわらず、その時間帯に一定人数の勤務を必須にする、といった条件を同時に入れると、モデルは解を出せなくなります。
解なしが発生したときに重要なのは、「最適化AIが失敗した」と捉えるのではなく、「業務ルールのどこかに矛盾や過度な制約があることを検知できた」と捉えることです。
解が出ない原因は、定式化そのものに矛盾がある場合もあれば、入力データが現実と合っていない場合もあります。そのため、利用者や設計者は、どの条件が原因で解なしになっているのかを分析する必要があります。
対策としては、実行可能性緩和や、解なし分析用モデルの作成が有効です。
実行可能性緩和とは、すべての制約を絶対に守るのではなく、一部の制約については「どの程度なら緩めてもよいか」を設定し、最小限の緩和で解を出せるようにする考え方です。また、解なし分析用モデルを用意しておくことで、矛盾している制約の候補を特定しやすくなります。
課題2:大規模モデル
もう1つの大きな課題が「大規模モデル」です。
業務に最適化AIを適用すると、決定変数や制約条件の数は想像以上に増えていきます。配送計画であれば、訪問先、車両、時間帯、積載量、担当者、休憩時間などを考慮する必要があります。こうした要素を丁寧にモデル化するほど、計算対象は大きくなり、現実的な時間で最適解が得られない場合があります。
このとき必要になるのが、計算しやすい形にモデルを整える工夫です。
たとえば、影響の小さい要素を近似したり、同等の意味を持つ制約をより計算しやすい形に置き換えたり、全体を一度に解くのではなく、地域別・時間帯別・工程別に問題を分割したりします。
また、実質的に同等な選択肢が大量に存在する場合は、それらを整理することで、ソルバーが無駄な探索をしないようにします。
さらに高度な手法として、列生成法や遅延制約を使うこともあります。
列生成法は、最初からすべての候補を列挙するのではなく、必要な候補を計算しながら追加していく方法です。遅延制約は、最初からすべての制約を入れるのではなく、解の探索中に必要になった制約を後から追加する考え方です。どちらも、大規模な組み合わせ問題を現実的な時間で扱うための重要なテクニックです。
最適化AIを業務に定着させるうえでは、「最初から完璧なモデルを作る」ことよりも、「業務で使える粒度から始め、段階的に精度を高める」ことが重要です。
まずは主要な制約と目的関数に絞って小さく始め、現場のフィードバックを受けながら制約を追加していく。この進め方であれば、計算時間を抑えながら、現場にとって納得感のあるモデルへ育てていくことができます。
まとめ
最適化AIは、人が日々行っている複雑な意思決定を、決定変数・制約条件・目的関数という形に整理し、再現性のある判断へ変えていくための仕組みです。候補が少ないうちは、人がすべてを確認して判断できます。しかし、訪問先、時間帯、予算などの条件が増えると、組み合わせは一気に増え、人手だけでは最適解を探しきれなくなります。
そこで最適化AIは、制約を守りながら、移動時間を短くする、コストを下げる、納期遅れを減らすといった目的に対して、最も良い選択肢を計算します。
一方で、業務で使うためには注意点もあります。制約条件を厳しくしすぎると「解なし」になり、モデルが大きくなりすぎると計算時間が長くなります。
そのため、最適化AIを成功させるには、最初から完璧なモデルを作ろうとするのではなく、重要な条件から小さく始め、現場のフィードバックを受けながら段階的に育てていくことが重要です。
伊藤忠テクノソリューションズのAI最適化の取組み

伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、課題の整理から数理モデルの設計、システム開発、保守、業務定着まで一貫してサポートしています。
Excelや担当者の経験・勘では限界を感じている場合は、最適化AIの導入を検討する価値があります。日々の業務に「毎回悩む判断」「担当者によって結果が変わる判断」「条件が多く調整に時間がかかる判断」があれば、ぜひご相談ください。
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